日本の医学史ツアー

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www.jonbainestours.co.uk

 

さきほど梅原先生のドイツ語圏の記事を紹介した。他の地域についての記述もたくさんある。イギリス、アメリカ、日本を中心にしたものは、高林先生らが作り上げた素晴らしいサイト「医学史関連リンク」が医学史と社会の対話」に準備されている。ぜひご訪問していただきたい。

フランスの医学史については、組織的な一覧は見たことがないが、日本の医師や医学史家の間で非常な人気があるのが、 岩田誠. パリ医学散歩. 岩波書店, 1991. であろう。パリの医学の歴史の栄光と詩情を描く文章が素晴らしい。ご一読ください。

もう一つ、これは外国人を対象とした日本の医学史ツアーをご紹介したい。世界各地の医学史ツアーを企画するという面白いお仕事をしている Jon Baines 氏。バイナム先生のご紹介で、日本でお会いしてお話をしたことがあった。日本の医学史ツアーは三つ用意されていて、麻酔、歯科、そして高齢者ケアなどである。場所としては京都などのほかに、ヒロシマなどが美しい写真で紹介されている。それ以外にも、世界各地の医学史ツアーが準備されている。素晴らしい学者たちがツアー・ガイドとなり、きっと面白い医学史産業になっているのだろうと思う。

 

 

医学史と社会の対話ー優れた記事の紹介⑭

igakushitosyakai.jp

 

医師の収入が高いこと、休暇が文化志向を持つこと、各地の大学医学部や医師会などの誇りが高いこと、場合によっては自分が現在つかっている道具が最初に作られた起源の地であること。そのような理由で、多くの医師が海外旅行するとき、医学史博物館のツアーをしています。近年では、ここに患者の歴史も入り、医学史博物館という産業が発展しています。ドイツで医学史を学んだ梅原先生が書いてくださった「ドイツ語圏の医学史博物館めぐり」。ベルリン、ドレスデン、ウィーンといった重要な都市が誇る医学史博物館を紹介してくださっています。医療関係者の方はもちろん、患者として医療に興味がある皆さま、ぜひご一読ください!

無症候性キャリアーと731部隊

久しぶりに査読論文を書いていて、それも感染症についてである。日本の戦前の無症候性キャリアーのついての論文である。それに対するコメントに対応するということもあり、日本の731部隊との連関にやはり少し触れないといけない。整理して書くとこのようなフレームワークになるだろう。赤の部分を書き足したフレームワークにする。実際に議論しているのは動物実験だけど、731との関係をゆるやかな形で出すために、数パラグラフ書き足す感じである。
 
日本
チフスのメアリーの終生隔離
チフス動物実験 人体実験?
同性愛者がHIV確認のため血液検査するべきだという議論
 
20世紀初頭のニューヨークで、「腸チフスのメアリー」と呼ばれた有名な症例があった。メアリー・マローンというアイルランドからの移民が、腸チフスの症状が出ないのだけれども、体内に腸チフスを長期間保つことができるというタイプの患者であり、コックとして中産階級の家にやとわれて住んでいたが、何回も雇い主の家族などが腸チフスにかかってしまって、最終的には公衆衛生の隔離病院に二回、合計で30年ほど閉じ込められていたという事件である。無症候性になりうる腸チフスの事例が起こした事件である。
 
この事件を、1990年代にもう一度取り上げたのが、Judith Leavitt である。昔は科学と細菌学と公衆衛生の勝利と描かれていたが、当時の HIV/AIDS の流行が引き起こした、無症候性キャリアーにどう対応するのかという問題と重ねた優れた著作である。 Typhoid Mary というタイトルで読むことができる。 
 
これはアメリカの問題であるが、日本における 1980年代から90年代の HIV/AIDSを見ると、違う形であるが、やはり医学が問題を出しているという形になっている。著名な薬害エイズという形で、血友病の患者に与えられた治療で用いた血液が HIV を含んでいたため、多数の血友病患者が HIVになったという話である。厚生省、ミドリ十字、そして阿部教授が訴訟されて事実上の有罪となった。
 
それなら、日本の戦前の無症候性キャリアー対応はどうだったのか、という議論にする。これまで動物実験がいっぱいあったと書いていたが、今回、このリサーチは731部隊と関連があり、人体実験や赤痢や腸チフスの実地の利用を試すこととも関係を持っていたというフレームワークにしよう。
 
Harris, Sheldon H. Factories of Death : Japanese Biological Warfare, 1932-1945, and the American Cover-Up.  Rev. ed edition, Routledge, 2002.
青木, 冨貴子. 731 : 石井四郎と細菌戦部隊の闇を暴く. vol. 8382, あ-58-1, 新潮社, 2008. 新潮文庫.
松村, 高夫 et al. 戦争と疫病 : 七三一部隊のもたらしたもの. 本の友社, 1997.
常石, 敬一. 消えた細菌戦部隊 : 関東軍七三一部隊. 筑摩書房, 1993. ちくま文庫.
 

医学史と社会の対話ー優れた記事の紹介⑬

igakushitosyakai.jp

 

科学や医学の研究や医療の現場において、科学者や医師が<女性>であることは、いったいどのような意味を持っているのか。女性の科学者や医師がリーダーシップを取ることは、どのような経路を通って悪くみられるのか。現実の世界だけでなく、演劇 PHOTOGRAPH 51 でも、DNAの構造が解明されるときの女性研究者の「舞台」が描かれています。フェミニズムの文学研究者の若き俊英、北村紗衣先生の記事をお読みください!

日本葬制史と死亡場所

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勝田至編『日本葬制史』(2012) を眺めて、色々と面白い記録をメモ。中江兆民が1901年にガンで没したときに、無神無霊を唱え宗教色を薄くし、火葬を行い、医学発展のために解剖させたという。火葬は1925年には43.2%は火葬であった。しかし、法定伝染病で死んだものの死体を火葬することをさだめた伝染病予防法があり、火葬がある種のネガティヴなイメージを持ったとのこと。

もう一つ人口動態から死亡場所を組み込んでいるデータがあったので、私もネットでデータをみつけてエクセル表をつくっておいた。病院での死亡の増加と自宅での死亡の減少がとってもよくわかる(笑)

医学史と社会の対話ー優れた記事の紹介⑫

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平体由美先生による、アメリカにおける農村地帯がどのように種痘が理解され、人々が理由ある仕方で反対したのかという記事です。昨年には、廣川先生による、種痘がどの動物の身体部分を人体に打つことなのかという、人間と特定の動物の身体の重なりに着目した記事がでました。今回は、種痘の政治的なアスペクトに注目した別方面からのすぐれた記事です! 

一年生・二年生向け一般セミナーを運営する方法

一年生・二年生向け一般セミナーを運営する方法を少し前進させるやりかたをやってみて、結構うまくいったので、メモしておく。

学部生向けの講義、大学院のセミナー、それに一対一のチュートリアルは、私が学生時代に多くを学んだ素晴らしい先生の方法を学んでいる部分があり、それなりに大学教員としてうまいかまあまあの水準だと思う。ひどく下手なのが、一年生・二年生向けの一般セミナーである。何をどうすればよいのかよくわからぬまま、20年くらいの年月が過ぎた。うまくいった年もあるし、とても悲しかった年もある。今年発見した方法は、春学期については、多少の手ごたえを感じることができたので、メモしておく。

 

1. 基本テキストとして、メアリー・ドブソン Diseases を選んだ。英語コースとみなす学生は英語版を、日本語コースで履修できる学生は日本語版を選んだ。
2. ペスト、ハンセン病、梅毒という順番で疾病が30個選ばれ、それぞれの疾病の歴史が一章ずつあてられている。
3. この配列だと、古代から始まって現代にいたるという歴史学の正統的な方法で話が進むという構造が避けられ、それぞれの疾病がエピソードが付け加えられる構造になる。
4. これを1章ずつ、その場で読ませ、重要なポイントを皆でディスカッションし、それをまとめたものを英語で書いてもらう。30分+30分+30分 の配分になる。
5. これを6章実施して、だれもが最初の6章を読んでいるという状態にする。
6. 次に、時間を2回分つかって、皆で読んだ6章の内容をエクセルの表に入力する作業をした。エクセルの項目は私が決めた。以下のような構造である。

 

Table 1: Infectious Diseases and Their Stay in Europe
         
  Arrival Decline Prevention Cure
Plague        
Leprosy        
Syphilis        
AIDS        
Typhus         
Typhoid        
         
Source: Mary Dobson, Disease: The extraordinary Stories behind HIstory's Deadliest Killers (2007)


7. このエクセルの表を Dobson を見ながら挿入していく。本来、もっと議論をしながら挿入するとよかった。
 
8. このエクセルの表に、学生一人が一つの疾病についての章を読み、新たに足していくという形で発展させる。一回だけ行ったので、全部で13個の疾病の表、2回行えば、全部で20個の表についてのエクセル表を共有することになる。我々の表は以下のようになっている。

 

 

  Arrival Decline Prevention Cure
Plague        
Leprosy        
Syphilis        
AIDS        
Typhus         
Typhoid        
Chagas Disease        
Malaria        
Tuberculosis        
African Panosomiasis        
Puerperal Fever        
Cholera        
Encephalitis Lethargica         
         
Mary Dobson, Disease: The Extraordinary Stories behind History's Deadliest Killers (2007) 

 

9. ここまでの過程は、個人でテキストを読んで理解する訓練をするーそれを一覧表にまとめるー他人が読んでいないテキストを共同の表に提供し、自分が読んでいないテキストの他人のよるまとめも自分の表に取り込むという三つの流れを融合させている。

10. これをベースにして、面白いことを発見してプレゼンをしてみた。ドブソンの本は非常にうまく使えたし、表の使い方もうまかった。プレゼンの画像の利用については、私をはるかに凌駕していたというか、自分の画像のプレゼンが悲しいほど下手だということを実感した(笑)

 

医学史のアスペクト、会社などの組織で個人で行う仕事のアスペクト、集団で行う仕事のアスペクト、それを用いて再度個人の仕事をするアスペクトなど、色々な性格の仕事を一つのベースで行わせてみた。