阪神タイガース!(笑)

www.ucpress.edu

カリフォルニア大学出版会。素晴らしい出版局である。Caroline Bynum の Holy Feast and Holy Fast (1987) などは青春の一冊である。この出版局から最初の著作を出版できたことは、私の学者としての何かを支えている。そこの新刊刊行のお知らせに「阪神タイガースのスポーツの宇宙」を見つけた。外国人の学者が衝撃を受けて学術書を刊行した阪神タイガース。買ってみました。読むかどうかまったくわからないけど(笑)これを電子図書で持っていることは、私の何かを支えてくれるから。何かがなんであるのか、自分でもわかりません(笑)

 

akihitosuzuki.hatenadiary.jp

 

 

f:id:akihitosuzuki:20190515055140j:plain

阪神タイガース

 

第二回・文理連接プロジェクト研究講演会

4月16日(火)の夕刻には、「文理連接プロジェクト・医学史と生命科学論」の第1回研究会が開催されました。医学史の鈴木晃仁(慶應義塾大学)「症例誌と文学と社会:医学と様式と歴史の複合」が行われました。文系と理系の学問と教育が接する場所である慶應日吉にふさわしく、複数の分野をまたぐ講演と活発な議論が行われました。

 

第2回研究会は、5月21日(火)の18:15~19:45から、哲学の荒金直人先生(慶應義塾大学)「ラトゥールの科学論と<物の歴史性>を非還元性の原則から捉え直す」が提供されます。哲学と歴史と科学論が展開される、非常に大きな主題の議論になると思われます。ぜひいらしてくださいませ!

 

lib-arts.hc.keio.ac.jp

 

 

ラクロ『危険な関係』と成人後の天然痘

Laclos, Choderlos de and 武彦 伊吹. 危険な関係. vol. 赤-1162,1163, 赤(32)-523-1,2, 6809-6814, 岩波書店, 1965. 岩波文庫.

金曜日に映画を観て、16世紀の天然痘の人格への影響を知った。エリザベスが30歳の時に天然痘となったこと、美しかった顔貌が大きな変化が現れたこと、それに伴って人格が良い方向に変わったことなどである。18世紀初頭もそうであり、人痘を導入したモンタギューも成人後の天然痘が大きな影響になる。それから、これはフィクションだが、18世紀末のラクロの『危険な関係』では、邪悪な女主人公のメルトゥイユ侯爵夫人が最後で天然痘にかかった。これはダメ押しという感じであるが、彼女が失墜し、排斥され、無視され、訴訟で敗訴した後に、天然痘にかかる。そのダメージは非常に大きくて、顔貌が大きくそこなわれ、破滅が決定的になり、周囲の人々は、心の中がそのまま外に明らかにされるようになったという。

私はグレン・クローズが主演した映画を観たが、そこでは天然痘のエピソードは組み込まれていなかった。

レオナルドの自画像スケッチ

www.theartnewspaper.com

 

イギリス王室のコレクションの中に、これまで気がつかなかったレオナルドの自画像スケッチ。レオナルドの自画像や、弟子が描いたスケッチなどがあるが、これはまさにレオナルド自身が描いた自画像スケッチではないかとのこと。もうじき展覧会が始まり、イギリス王室が入手したスケッチから数多くのスケッチが展示されるとのこと。

トマス・ザズの遺産

historypsychiatry.com

 

https://www.psychiatrictimes.com/film-and-book-reviews/thomas-szasz-appraisal-his-legacy

 

 

精神医療に関係している人々はトマス・ザズ (Thomas Szasz, 1920-2012) という精神科医で優れた評論家をご存知だろう。何冊かの日本語の書物も読んだことがあるかもしれない。私は一度だけ大きな学会で講演を伺ったことがある。1992年くらいだったと思う。全盛期は完全に過ぎて、討論の時間には精神科医たちがぼこぼこにやっつけようとしていたが、ザズ先生が粘り強く強靭な論理で立ち向かい続けていた記憶がある。
 
ハンガリーブダペストに生まれたユダヤ人。ヒトラーナチスを恐れて、両親とともに1938年にアメリカに移住した。ブダペスト中欧・東欧で最大で最も美しい都市であり、近現代の医学においても、ドイツやオーストリアとの接点を発展させて大きな発見をする事例が多い。ザズもハンガリー語のほかにフランス語とドイツ語を美しく話し、英語はまったくできなかったという。そこから、精神医学の根本を批判する非常に鋭い議論を展開して、1960年代から70年代には大きな潮流を作り出した。数多くの論点があり、それらが語る歴史、哲学、倫理の議論があった。これは必ず読んでおこう。手軽に読むことができる書評もあります。
 
Thomas Szasz: An appraisal of his legacy (International Perspectives in Philosophy and Psychiatry) (English Edition)

エリザベス女王と天然痘の傷跡

www.2queens.jp

 

昨日は夕刻に映画『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』を観た。イギリスの歴史映画は、だいたい実佳とともに大好きで、点が甘くなるのは事実だけれども、非常に優れた映画である。史実に関して、特に性的な描写と人種の描写に関しては、現代にかなり寄っている部分がある。性的な振舞いは戦略に沿って自由奔放に描いているし、人種に関しては、アフリカ系、中近東系、アジア系の俳優が数多く用いられている。史実に合っているのかなあと思う。しかし、全体のメッセージに関しては、二人の女王が、どのようにして支配者を行うのかという話を深く描いていて、とても面白い。

実は、同じ史実のジャンルだけれども、強調されているエピソードは、エリザベスが33歳の時に罹患した天然痘である。この天然痘はエリザベスの顔にすさまじい爪痕を残していき、その後も髪の毛や対人関係に大きな影響を与えた。別の人格になったといってもいいし、メアリーへの対応が明らかに非常に深いものを持つようになった。史実の中で、天然痘だけを強調するのは、医学史だけが喜ぶ視点である。でも、私は大いに共感した。それと同じように、ジェンダー、セックス、人種など、現在でも重要な部分が強調されるのだろうなと思う。

子宮頚がんとHPV予防ワクチンと少女の性行為の問題

 

mosaicscience.com

 

ウェルカム財団の MOSAIC に、アフリカのルワンダにおけるHPV予防ワクチンと子宮頸がんの記事が掲載された。ルワンダは、コンゴウガンダタンザニアブルンジに囲まれた小さな地域であるが、人口は多い。ドイツ植民地からベルギー植民地となり、1962年に独立した東アフリカの国家である。1990年代にルワンダの虐殺と呼ばれる凄惨なホロコーストがあり、国内で100万人前後が殺されている。そこから、人々の健康について懸命な政策を行っている、基本的には良いありさまが描かれている。

HPVのもとは、ヒトパピローマウイルスであり、これを省略してHPVという。100種ほどのヴァージョンがあり、そのうちの数種類が、性病となりやすい。性交や、性器との接触などによって感染する。

その性病がある程度の長さを持って継続すると子宮頸がんになる。子宮頸がんは、世界全体では50万人の新しい症例で、30万人ほどが死亡する。日本では年間1万人ほどの患者が現れ、3,000人程度が死亡する。この子宮頸がんの発生を抑える方法が、HPVのワクチンを接種することである。2006年にドイツで開発されたワクチンで世界各国で接種されるようになって、子宮頸がんの発症率や死亡率が低下することとなった。一方で、このワクチンにまだ危険性があり、いくつかの先進国の国家では、自由選択で接種するようになった。アメリカやイギリスでも、ワクチンへの信頼がゆらぎ、デンマークアイルランドではかなりの不信感の増大があった。そして、私が知る限りでは、世界中でもっとも大きな打撃を被ったのが日本の状況である。この記事では、かつては70%のワクチン接種率があったのが、一気に1%に落ちたという。その状況もあって、日本においては、子宮頸がんの死亡率が増大しているという。胃がんや肺がんの死亡率は減少しているのに対し、子宮頸がんだけは上昇していることは、おそらく大きなダメージである。

ルワンダのHPVのワクチンの接種は、1990年代の虐殺後で、極度に貧しい状況であったが、色々な意味で成功した。もちろん大きな仕掛けは必要である。進歩した医療技術の導入、国家のラジオによるキャンペーン、国際的な製薬会社のメルクによる協力、外国で教育された人々による貢献などがある。しかし、私の印象に残ったのは、それよりも小さな基準での接種であり、接種を実行するローカルな仕組みが、医療的というよりも社会的と呼んだほうがいいことである。接種されるのは小学校を卒業する12歳前後の年齢で、それぞれの村にいるヘルスワーカーと初等教育の先生が協力している。この人たちが、小さな村に住み、小学校で教えているから、少女たちを知っている。これは非常に社会的な状況である。そこに先端的な医療が入っていくことは、大きく成功するだろうと思われる。

一つ、大きな問題になっていたことが、12歳の少女が、ある意味で性病にならないワクチンを接種することを、親がどのように受け取るのかという問題である。13歳になったら性的に自立し、性交しても性病にならなくて、ある種のがんにかからないから、それでOKだというメッセージにも解釈できる。両親、おそらく母親と学校教師やヘルスワーカーの間に、丁寧な同意が形成されたのだろう。