Over the Hill

 圓月勝博さんの論文「文学史家ヒルとイギリス革命の響きと怒り」を読む。
 
 家内が大学の同僚から戴いた『イギリス革命論の軌跡』をめくっていたら、何度かお会いしたことがある知人たちも書いていた。その中で何気なく読み出した圓月さんの論文が「痛快」という表現がぴったりの論文だった。このブログはどちらかというと自分の勉強のためのもので、読んだものの学問的に的確な紹介を中心にしよう、「感想」を好き放題に綴る日記にしないようにしようと決心しているが、この論文については、好き放題を書かせていただきたい。
 これぞ「全体的知識人」が書く文章であると思った。クリストファー・ヒルの学問的な関心の移行を、1950年代から80年代までのイギリスの知識人の状況に重ね合わせながら、左翼の変貌と敗北と固陋を、一気呵成に、容赦なく、しかし愛情をこめて描いている。そこに、専門であるシュアーな文学の知識が簡潔に分かりやすく名人芸のように織り込まれている。随所にちりばめられた警句風の言い回しも、ヒルの文章に対する大胆な読み込みも、文学研究者の腕が冴えている。日本の「西洋系」の研究者たちの多くは、自分の頭で考え、自分の言葉で語っていないという批判をよく耳にするし、残念ながらそれが当たっていると思うことも多い(この論集に寄稿している歴史家というわけではなく、自戒の意味で書いているので、誤解のないように・・・)。そんな中、圓月さんの論文は、とても痛快だった。おそらく、来年には日本中の英文科大学院の17世紀コースのリーディングリストに掲げられている必読文献になるだろう。

本は岩井淳・大西晴樹編『イギリス革命論の軌跡』(東京:蒼天社出版、2005)。圓月さんの論文以外も面白いものが目白押しだった。