自殺の文学史

 自殺のリサーチが続く。コアになる資料を読みながら、背景の知識を仕入れている。文献はグリゴーリイ・チハルチシヴィリ『自殺の文学史』(東京:作品社、2001)。

 自殺の文化史の百科辞典的な書物。時代と地域を問わず縦横無尽に素材を集めて、多様な素材を活かせるようなゆるい枠組みを作ってさらりと洒脱にまとめてある。大原健士郎の本と同じように、知らない話が満載。特に作家の自殺の背景について詳しい。日本の作家の話もたくさん取り上げられている。色々なことを知っておくこと、どんな問題を他の研究者が論じているかを知っておくのはプラスになる。

 この本もそうだし、モーリス・パンゲの名著『自死の日本史』もそうだが、精神医学の自殺解釈に対する軽視が目に付く。精神医学的な自殺論は揶揄の対象であるともいっていい。確かに、哲学的・文学的な陰影がある自殺を機械的に精神病の産物とする還元主義的な傾向に対する反発は分からないでもいい。しかし、精神医学者の自殺論は少し丁寧に読むと、陰影に富んだ豊かなものである。