Psychopathy の訳語

 しばらく前に純然たる想定外の仕事が一つ入ったと書いたが、その関係で、19世紀のドイツの精神医学書の英訳に目を通す。 Feuchtersleben, Ernst Freiherr von, The Principles of Medical Psychology, translated by H. Evans Lloyd, revised and edited by B.G. Babington (London: The Sydenham Society, 1847; reprint by New York: Arno Pres, 1976).

 確かめたかったことは、フォイヒテルスレーベンの psychopathy の概念が、現代の psychopathy の概念と違うことであった。(私は一度、20世紀だからいいかと思って 英語のpsychopathy を不用意に「精神病質」と訳してしまって、そのテキストの事情をよく知っている先生に間違いを指摘されたことがある。)現代の psychopathy は日本語で「精神病質」と訳し、ある種の人格障害の名称になっている。最近ではこの障害の存在を疑う精神科医が多いという印象を持っているけど。 フォイヒテルスレーベンのpsychopathy の概念は、確かに人格概念と結び付けてはいるが、「精神病質」の概念よりもはるかに広い。ちなみに、OEDではこの著作を、英語における psychopathy という語の初出として取っている。もうひとつちなみに(笑)、「精神病質」というのは、「衝動的・攻撃的・自己中心的・無責任で非社会的な行動を特徴とする人格障害」だそうで、これは診断というより罵詈雑言の寄せ集めと言ったほうがいいような気がする。精神科医にとって、そうとしか言いようがない「患者」を相手にしなければならないことがあるのは想像できるけれども。

 フォイヒテルスレーベンは、ウィーン大学の医学教授であったと同時に、啓蒙的な著作をものする哲学者でもあり、ひとかどの詩人でもあった。オーストリアの「貴族」の事情を私は知らないが、爵位も持っていた。面白い人物であるが、英語圏であまり知られていないドイツの医者である。