『吸血鬼カーミラ』


 出張先でレ・ファニュ『吸血鬼カーミラ平井呈一訳(東京:創元社推理文庫、1970)を読む。表題作はわりと有名な作品だと思うけど、私は読むのが初めて。というより、レ・ファニュという作家を読むのが初めて。このあいだPINKさんが低人さんのところで書いていたけど、こういうときは、翻訳大国のありがたさを実感する。

 来年はじめようと思っている新しい内容の授業の準備である。「医学と文学」というような内容のセミナーで、医療系のホラー小説も少し読む。私はホラー小説を殆ど知らないので、学生のほうが先生より詳しいという珍しい授業になるだろう。吸血鬼ものを取り上げようと思ったのは、AIDSのパニックが醒めやらぬときに作られた映画『ドラキュラ』をみせたいという思惑である。ウィノナ・ライダー主演で、感染する血液の病理のイメージを前面に押し出した作品だった。

 『吸血鬼カーミラ』は、悪魔つきでも、ヒステリーでも、green sickness でも、拒食症でもいいけど、長くて多様な歴史を持つ「思春期の女性の不健康と欲望」の問題系である。無為と不健康とレズビアンな欲望に生きる女吸血鬼カーミラの物語である。「男の精気を吸い尽くす」女吸血鬼とは、漠然とだけれどもかなり印象が違う。面白いけど、これは参考図書かも。  

 表題作が目当てだったけれども、その他に収録されている短編も面白かった。特に「仇魔」にしろ「大地主トビーの遺言」にしろ、悪魔などを主題にしたフィクションと異常心理学の深い関係をものがたっている。