エイジングの社会科学

 エイジングの社会科学についての論文集を読む。文献は渋谷望・空閑厚樹編集『エイジングと公共性』(東京:コロナ社、2002)

 <老い>についての付け焼刃の勉強が続く。知らない話ばかりなので面白いし、自分でペーパーを読むわけではないので、だいぶ気が楽である。秘書が借り出してくれた本の中に、早稲田大学人間科学総合研究センターが刊行しているシリーズの一冊で、私には面白いものがあったので記事にしておく。

 日本の「老い」を社会学・社会科学の視点から捉えた論文が並ぶ。ばらつきは多少あったが、どれもわかりやすく水準が高い。特に第4章「保険社会とエイジング」、第六章「高齢者アイデンティティをめぐるポリティクス」が面白かった。前者は保険が、自助努力(リベラルな社会)-連帯(福祉国家)-リスクマネジメントと概念を変化させていくのに応じて、あるべき高齢者の姿が変わってきたという議論。「周到なリスクマネジメントに励み、有利な金融商品や保険商品を保有し、アクティヴな老後を構築できる高齢者と、他方には文字通り自分しか便りにできず、かろうじて公的年金・恩給に支えられるのみで、無審査の保険に入ることすら難しい高齢者がいる。高齢者の個人化はこの二つの方向で進んでいる。 ・・・ アクティヴで賢い高齢者になること、それは言ってみれば「AAA(トリプルA)の高齢者」として格付けされることである。」後者の議論は日本の特殊性の話し。イギリス型の福祉国家は、高齢者を産業と市場の論理から自立させながら社会が管理しなければならない弱者として定義した一方で、日本においては企業が福祉国家の機能を代替しており、企業の規模によって年金の手厚さが大きく違ったので、高齢者は一枚岩でなく分裂していたという話。

 正直言って、ここで高齢者や老いの問題が本当に語られているのか、福祉国家論をそのまま老いの問題にあてはめただけではないか、社会の構造と政策だけで老いの経験の問題を論じる視角がないんじゃないかという気もするが、まあ、それはいつものないものねだりである。