精神医学の名著50

 評判が良かったので買ってみた福本修・斉藤環編『精神医学の名著50』(東京:平凡社、2003) を読む。 

 20世紀の精神医学の名著を50冊選んで一冊ずつ解説したいわゆるアンチョコ本だけれども、水準が高く読んで楽しいアンチョコ本である。それぞれの本が扱っている専門分野の専門家や、その本に個人的な思いいれがある書き手が書いている。研究史上の意義なども紹介されていて、読み応えがあるものが多い。 私にはDSM-IIIを扱ったものが一番面白かった。 英語で「栄光ある敗北」glorious defeat という言葉があるが、まさにそれにあたる。 

 気になった点は山のようにあるが、一つだけ。50冊のうち、精神薬理学を扱ったものは一冊しかない。(一方で現存在分析の本が10冊くらい、精神分析が10冊くらい上げられている。)20世紀の精神医療の風景を劇的に変えるのに最も貢献した薬理学が、1/50 の扱いしかされていないことは、感慨深かった。精神薬理学は、「名著」の名に値するものが少ない、知的な砂漠なんだろうか。それとも、この書物の編者は、自分たちが処方している薬に興味がないのだろうか。