モダニズム入門

 20世紀前半の精神医療の研究をするために、背景としてのモダニズムの入門的な勉強をしている。(新しい「時代」を勉強するのは、多分これが最後になるだろう。)文献はマイケル・レヴァンソン編『モダニズム入門』荻野勝他訳(東京:松柏社、2002)。ケンブリッジ大学出版局から出ている便利な Cambridge Companion の一つで、このシリーズの例に漏れず、分かりやすくて密度が高い。

 1923年に、ヴァージニア・ウルフが、あるパーティに出たときの日記がとても印象に残った。こういうのを、telling details というのだろう。「人の平均的な脈拍を70としよう―私のそれは、5分で120だった―そして血―昼間の粘っこく淡い色の液体ではなく、シャンパンのように輝いて刺激するような―これが私の状態だった―そしてほとんどの人々の―私たちは出会ったときに、ぶつかった―ぱっと離れて、気安く洗礼名を呼び合い、シェイクスピアのことを大いに持ち上げ、ほめて、考えた―私たちはみな気がおけず、才能に恵まれ、フレンドリーで、こんな具合に楽しめるようにできているよい子のよう―私たちの父親たちにはできたのかしら―この気のおけない芸術家たちのおしゃべりには、私にぴったりの言いようもない何かがある―私自身のものと同じ価値、それゆえに正しい価値―邪魔者はいない―生活は魅力的で、楽しく、興味深い―努力はいらない―その全体を静かに覆うように芸術がある。」

 ウルフが描くこのモダニズムのインテリ像は、私が知らなかったウルフとモダニズムの側面だった。細部がいちいち一致しているわけではないが、ひとみどんさんのブログが持つ魅力と通ずるところがあるような気がした。