黒人の健康と正当化の言語

未読山の中から、南アフリカの黒人の健康問題を定位する枠組みの変遷をたどった論文を読む。文献は、Packard, Randall M., “The ‘Healthy Reserve’ and the ‘Dressed Native’: Discourses on Black Health and the Language of Ligitimation in South Africa”, American Ethnologist, 16(1989), 686-703. 著者は南アフリカの医学を題材にして洞察に富んだ必読文献を数多く発表している実力者で、これまでも何度も取り上げた。その中でもこの論文は特に優れていると思う。この記事では、著者に従って「黒人」という言葉を使うことを断っておく。 

南アフリカの白人医師たちが、同地の黒人の高い死亡率、特に結核の死亡率が高い事態に直面したときに、それをどのように説明し、どのような対策が有効だと考えたのだろうか?この論文によれば、「その時代において重要な産業の労働形態を正当化する」というのが鍵だという。ダイヤモンドや金の鉱山の季節移民労働が重要だったときには、生まれた環境から異なった環境に来たことが彼らの病気の原因で、しばらく労働した後で、生まれ故郷や、それと似た環境でしばらく過ごすと、黒人労働者たちは素晴らしく元気になるとされた。そこから、地方から出てきて都市環境になじむことができずに健康を損なう黒人と、その黒人が健康を取り戻すことができる田舎という神話が作り出されたという。 

歴史上のある医学理論が何かを正当化して、その関係を分析するというのは、広義のイデオロギー論で、乱用しすぎると単調になるけれども、この論文は面白かった。