『慈善週間』



少し時間にゆとりができたので、マックス・エルンスト『慈善週間または七大元素』をゆっくり眺めて読む。巌谷國士の訳が河出書房文庫から出ている。

エルンストが1934年に出版した『慈善週間または七大元素』は、『百頭女』(1929)、『カルメル修道会に入ろうとしたある少女の夢』(1930)に続く、コラージュを連作する手法で物語を語るエルンストの「コラージュ・ロマン」の三作目。『百頭女』は少し前に記事にした。

数えたわけではないけれども、『百頭女』では人間や鳥の姿はそのままに保たれているのに対し、この作品には身体の変容に重きを置いた奇想が多い。主要な登場人物たちが既に異形の身体をしているのは、ライオンの頭をした獣面人身の男を描いた「元素―泥 例―ベルフォールの獅子」の章、ドラゴンの羽根や尾をはやした男女を描く「元素―火 例―龍の宮廷」の章、さまざまな鳥の頭をしてスーツを着込んだ男たちを描く「元素―血 例―オイディープス」の章などである。「元素―視覚 例―視覚の内部」と題された章の中には、人間の骨に、植物の性器であるおしべやめしべをつけた、不思議な家具のようなオブジェや、人間の骨格を取り込んだ造形が多く描かれている。

最後のコラージュで、河出文庫の表紙にもなっている作品は、もちろんヒステリー発作を描いたイラストを宙に浮かせたもの。シャルコーの時代のヒステリーの写真やイラストを見ると、「硬直」という言葉にふさわしい硬さ・「しばりつけられる」感じが表現されているけれども、エルンストのコラージュでは軽やかに宙に浮かんでいる。

画像はエルンストと、ポール・リシェの1881年のヒステリー論のイラストより。