薬の新聞広告


今日は無駄話。

少し先の話になるけれども、次は患者の受療行動の歴史を研究しようと思っている。そのための準備で、新聞の薬の広告をPOしてもらった分厚いファイルを繰りながら、このマテリアルがどのような使い方ができるか考えていた。

薬の広告の分析は、日本の医学史においては、「面白社会史」「面白文化史」というジャンルの対象になっている。イラストも面白いものが多く、キャッチコピーも目を引くものが多い。天野祐吉が『嘘八百』という明治から昭和までの「面白広告集」を集めた本を出しているけれども、そのなかのかなりの部分は薬の広告である。基本、「面白い」広告を集めて楽しみましょうという方法論(笑)である。この手のスカラシップについては、学者としては色々文句があるだろうけれども、薬の広告の使い方としては、実は一番ふさわしい使い方なのかもしれない。じっさい、データベースで一年間の薬の広告を全て印刷してみて、これがどういう使い方ができるのかということを考えてみると、なかなか難しい。

たとえば、ぱっとみで言うと、結核の薬の広告は意外と少ない。目について多いのは梅毒の治療薬である。このような病名を挙げて効果をうたう広告以外にも、体力をつけたり精力をつけたりする薬も多い。トッカピンという薬は、通常は夜の楽しみのための精力剤だといい、受験シーズンには受験に効く頭がよくなる薬だと広告していた。戦争が起きると、トッカピンを飲むと戦争に強い男になるかのような広告をした。一連のキャッチコピーを出し続け、強精剤にありがちな悪乗りを感じさせるが、きっと、それはそれでいいんだろう。女性向けの薬は、日本画家が描いたような美人を、四季折々の景色の中に置いたヴィジュアルに優美な広告を展開している。たとえばツムラの「中将湯」でいうと、冬の冷え症、春の憂鬱にはじまって、さわやかな夏と読書の秋を経て、年末の大掃除にいたるまで、女性の生活の中に薬を置いたおしゃれな広告を出している。

・・・で、だから、なんなんだろう。こういうことをもっと深く丁寧に調べると、何が分かるのかな。そういうことは、丁寧に調べてから考えたらいいのだろうか。

「中将湯とともに過ごす女性の一年」の画像を作ってみたので、それをアップします。