『古事記』

必要があって『古事記』を読んだ。福永武彦が現代語に訳したものが、河出文庫から出ている。

家畜人ヤプー』を通じて、人種と身体と国家を論じる論文を準備している。『ヤプー』は日本のSMの奇書として有名だけれども、大きく分けると、人間身体(日本人の身体)の技術的な改変と品種改良を中心した医学的SFの要素と、日本文化・日本語についてのパロディという二つの要素を持っている。第二の要素の圧巻が、末尾のほうに現れる記紀万葉と日本神話のパロディである。この論文では第一の要素しか分析しないけれども、第二の要素についてもあらあらの知識は持っておいたほうがいいし、せっかく記紀の世界を知る機会だから、空いた時間を使って『古事記』や『日本書紀』を読んでいる。もちろん原文や読み下しで読めればそれに越したことはないけれども、私にとっては読み下しですら外国語だから、福永武彦の現代語訳を読んでいる。

論文に必要だったのは、高天原と下界・黄泉の国が舞台になる上巻で、そこは勉強になった。中巻・下巻には、血沸き肉踊る冒険あり、裏切りと陰謀あり、悲恋ありで、こちらのほうが読み物としては読み応えがあった。(系図の部分は読み飛ばしたけれども。)輕の兄妹など、小説による再話で知っていた話などが、原型はこんな感じなのかという意外性もあった。それから、きっと多くの初心者の感想なのだろうけれども、歌謡の数々が、しみじみといいなあと思った。