未読山の中から、思いがけなく今考えていることの大きなヒントになる概念を見つける。文献はHome, R.W., “Humboldtian Science Revisited: an Australian Case Study”, History of Science, 33(1993).
アレクサンダー・フンボルトという名前は知っていたし、彼が当代随一の科学のスーパースターだったことも知っていた(日本を訪れたシーボルトもフンボルトに激しく憧れていた)。けれども、彼の流儀を組む科学研究の方法やあり方が、科学史研究者の間で「フンボルト派科学」と呼ばれていて、科学史のヒストリオグラフィの一つのモデルになっていることは知らなかった。
これは、私はまだ読んでいないが、Susan Faye Cannonという物理学史の研究者が1978年に出したScience in Cultureという書物のなかで論じている概念で、19世紀の前半には、最も先端的で魅力的な科学研究の方法は、フンボルトに倣ったものだったという。それは、実際にフィールドに出て、正確な測定を行い、後半で相互に連関する現実の背後にある因果関係や法則を見つけるものであった。19世紀の後半に主導的な科学のモデルとなった実験室のモデルは、フンボルト科学に較べると、時代遅れでプリミティヴなものだとみなされていたという。
19世紀の医学者たちの間で、意見が食い違ったときに、フィールドか実験室か、多様性なのかシンプルさなのかということは、「好み」の問題だと思っていたけれども、そうか、そういう背景があったのか。 キャノンの本を読まないと。
画像はフンボルトと彼の名を冠したペンギン。