最近、ボードレール『悪の華』を手元において、ちょっと時間ができた時に読んでいる。阿部良雄訳のちくま文庫の二巻本の『ボードレール全詩集』と、ペンギンの英仏対訳のものを並べて、数編の詩を読む。私のフランス語はもともと初頭文法に毛が生えたくらいだから、ペンギンのフランス語の部分はまったく役に立たないが、英訳はとても役に立って、日本語でよく分からなかった箇所も、英訳を読んでからフランス語を眺めると、ああそうかと思うこともある。
『悪の華』を読んだ人ならきっと憶えているだろうけれども、最初のほうに出てくる、とてもインパクトがある詩がある。道端で死んで腐敗する動物の死骸を描いた、「腐屍」と題されたものである。
思い出したまえ、わが魂なるひとよ、かくも快い夏の朝
私たちの見た物を
とある小道の曲がりかど、散り敷く小石の寝床の上に
けがらわしい獣の腐屍(しかばね)が、
私たちの見た物を
とある小道の曲がりかど、散り敷く小石の寝床の上に
けがらわしい獣の腐屍(しかばね)が、
みだらな女のように、両脚を宙にかかげて、
身を焦がし、毒の汗をにじませながら、
投げやりに、臆面もなく、悪臭に満ちた
腹をひらいて曝していた。
身を焦がし、毒の汗をにじませながら、
投げやりに、臆面もなく、悪臭に満ちた
腹をひらいて曝していた。
(中略)
そして天は、堂々たる死骸が花のように
咲きほこるのを眺めていた。
鼻をつく匂いはあまりに強く、草の上に
あなたは気絶せぬばかりだった。
咲きほこるのを眺めていた。
鼻をつく匂いはあまりに強く、草の上に
あなたは気絶せぬばかりだった。
蝿が唸りを立てて舞うこの腐敗した腹の中から
真っ黒な隊伍をなして繰り出す
蛆虫どもは、この生命ある襤褸(ぼろ)を伝って、
濃い液体のように流れていた。
真っ黒な隊伍をなして繰り出す
蛆虫どもは、この生命ある襤褸(ぼろ)を伝って、
濃い液体のように流れていた。
それらすべてが、波のように、低くなり、高くなり、
またぱちぱちと音を立てて跳ね上がる。
言うならば、漠たる息吹を受けてふくらんだ身体が、
増殖しながら生きていたのだ。
またぱちぱちと音を立てて跳ね上がる。
言うならば、漠たる息吹を受けてふくらんだ身体が、
増殖しながら生きていたのだ。
そしてこの世界は異様な音楽を奏でていた、
流れる水や、風のように、
あるいは、穀物を篩る(ひる)人が、箕(み)の中で、律動(リズム)ある動きに、
揺り、回転させる、粒のように。
流れる水や、風のように、
あるいは、穀物を篩る(ひる)人が、箕(み)の中で、律動(リズム)ある動きに、
揺り、回転させる、粒のように。
(後略)
この詩は、ボードレールの同時代人にとってもインパクトがあったもので、彼を賞賛するものも攻撃するものも、この詩を念頭においていたという。私自身、道端で動物が死んで腐敗している光景を実際に見たことがないが、たしかに、そこを音源にして「異様な音楽」が流れるといわれると、妙に納得する。
実は、この作品を読んで頭にこびりついている夜に、DVDで『エイリアン3』を観てしまいました。・・・それはそれは、たとえようもないくらい、不気味で不安で病的な気分になりますよ、この組み合わせは。 心臓が悪い人には勧めません。 あ、これは、本気ですよ。 あんなに気分が悪くなったことは、あまりないと思います。