戦後精神医学の研究論文

新着雑誌『Core Ethics 』から、戦後日本の精神科の歴史についての研究を二点。文献は、仲アサヨ「精神科特例をめぐる歴史的背景と問題点―精神科特例の成立および改正の議論から」Core Ethics, 6(2010), 277-286.; 松枝亜希子「トランキライザーの流行-市販向精神薬の論拠と経過」Core Ethics, 6(2010), 385-399.

戦後に日本の精神病院が急増した理由として、措置入院に対する公的な負担のしくみ、私立の精神病院建設に与えられた経済的な特典のほかに、精神科の病院は、医療法で定められている数よりも医師数・看護士数が少なくてもよかったという仕掛けがあった。これが「精神科特例」である。これは、1958年の厚生事務次官通達(発医第132号)で、精神科を「特殊病院」とし、医師の数は一般病院の三分の一、看護婦の数は三分の二でよいことを通達した。

今日保険薬として処方されているある種の向精神薬は、1950-70年代に市販されて広範に流通していた。メプロバメート製剤で、「アトラキシン」という商品名で売られた。それとは違うトランキライザーとして、武田のコントロール、山之内のバランスなどがあった。(こちらのほうが売れたらしい。)ノイローゼ、不眠、精神的緊張、不安に対して有効であるとされ、さかんに広告された。しかし、1960年代に、トランキライザーの国際的な乱用が問題になり、日本でも1970年代初頭には全面的に規制されることになった。