農村のトラホーム

必要があって、農村のトラホーム調査報告を読む。文献は、加藤金吉「農村の結膜疾患(神奈川県中郡成瀬村健康調査の中結膜疾患に関する統計報告)『日本眼科学会雑誌』vol.43, no.11, 2488-2508.

労働科学研究所が委嘱して、東大の眼科のチームが、神奈川県中郡成瀬村のトラホームを昭和13年の9月に二週間にわたって集中的に調査した。成瀬村は現住2800人ほどで、そのうち2400人を対して詳細な眼科検診を行った。これは、眼科だけではなく、内科、小児科、歯科、血液検査などの多様な分科にわたって行われた大規模な健康調査である。

調べた人口の15%程度がトラホームにかかっている。資産状態に敏感に反応する病気ではない。また、地域によって大きく変わるわけではない。家族集積性が高く、患者が3人以上集積している世帯の患者を合計すると、全体の60%近くになる。年齢階層でいうと、5歳から40歳くらいまでは一定で、それから上昇を始める。これは、年を取るとトラホームにかかりやすくなるというより、長い目でみたトラホームの減少と関係がある。全国壮丁検査でいうと、明治42年には23%であった罹患率は、昭和11年には8.4%に低下している。昔の人間は、トラホームを持っていたのである。そのため、老人は、トラホームを病気だと思っていず、「これは年寄目だから」といって気にしない。

一方、女性に圧倒的に多い。重症患者でいうと男子の2.5倍である。50歳以上の女子は、自分がトラホームであることに無関心であるのに対し、男性は、トラホームと聞くと、どうしたらいいのだろうかと心配そうに聞きに来るという。女性が無関心な病気というのは、ちょっと面白い。でもこれは、母親の世代ではなくて、祖母の世代ということだろう。

小田急線も通っていたこの土地が、いまだにほぼ純農村であったこと。茅葺が大多数であり、かまどに煙突がついている家は5%以下。水利についても、同じ村の中でも地域によって、水を得る方法や水質が大いに違っており、井水が悪質で川の堤防の下部を掘って染み出した水を竹管で通して配水する部落もあれば、掘り抜き井戸を使っている部落、浅い井戸で水質が悪いものを使っている部落などがあること。基本的なことだろうけれども、憶えておこう。