血族婚と精神障碍の重積

岡部 重穂「血族婚地域における精神医学的一斉調査」 『精神神経学雑誌』59(8), 1957, 663-676.

1957年に受理された論文であるが、調査が実施されたのはそれよりも15年ほど前の1942年である。7月1日から鹿児島県の甑島において2週間にわたって行われた。著者の岡部は九大の下田研究室であり、下田の研究室は1940年に五家荘と長崎県黒島の二つの地域を調査しているから、この論文でも、両者と甑島の比較が重点的に行われる。ポイントは、血族結婚が分裂病の集積を起こすかどうかという問題である。ドイツ系の学者(Brugger など)は、ミュンヘンバーゼルの周辺の地域における分裂病の集積を、それらの地域が血族結婚地域であることと因果的に結びつけたが、日本の学者たちは、総じてこの議論には慎重であり反対意見が多かった。反対意見が多かったのは、当時の日本の血族結婚の割合は欧米よりも圧倒的に高く、これを認めると日本は精神病が集積した国になるということを認めることにつながるからであると思われる。ドイツの偉い学者が言うことは素直に聞いていた日本の学者としては、かなり骨がある反対が展開されていた。日本の精神医学者たちが反ドイツで団結した問題であると言ってもよい。

具体的には、甑島血族婚地域は二つ存在し、A部落とB部落。Aは50%、Bは23%が血族婚である。ほかの地域は6.5%程度である。これらの血族婚地域には多くの精神病患者、特に分裂病の患者が住んでおり、このデータを素直にみれば、「血族婚からは精神病・精神障碍を起こしやすい」という結論が出るかのように見えるが、これを徹底的に分析して、血族婚が精神病を起こすわけではないと主張している。

甑島には「驚異的な高率」で分裂病が存在している。躁鬱、癲癇についても、高い。調査は、警察派出所の名簿「特視精神病者名簿」より33名、村医の陳述による精神病者10名の家系票作成を村役場に以来、その後、19年に家系票、患者病歴を補正した。