必要があって、疫学転換後の健康の不平等の問題を論じた論文を読みなおす。もとは1994年に出ただいぶ古い論文だから、もっといい論文も出ているのかもしれないけれども、私はこの問題については、ウィルキンソンを読むことで満足してしまっている。文献は、Wilkinson, Richard G., “The Epidemiological Transition: From Material Scarcity to Social Disadvantage”, in Ichiro Kawachi, Bruce P. Kennedy and Richard G. Wilkinson eds., The Society and Pupulation Health Reader: Income Inequality and Health (New York: The New Press, 1999), 36-46.
横軸にGDPpcなどの国の経済的な豊かさ・個人の収入などの指標をとり、縦軸に平均寿命などの健康指標をとると、「プレストンカーブ」と呼ばれる曲線を描く。収入が低いエリアでは収入の上昇にともなって寿命も延びるが、収入が高いゾーンにはいると、収入があがっても健康指標はあまり改善されなくなる。豊かな国を比べると、そこで寿命が長いのは、収入格差が小さな国である。これは、いろいろな測り方をしても変わらない現象である。しかし、たとえばアメリカなど、一つの国の中で比べると、収入の大きさと健康の間には明確な関係が現れる。疾病構造転換と重ねて考えると、マテリアルな欠乏が健康にとって大きな意味を持っていた段階を抜け出て、相対的な欠乏が大きく健康を決定する段階に入ったということになる。
相対的な欠乏が健康に影響を及ぼす理由は、心理・社会的であろう。重要なのは、物質的な水準ではなく、自分の周りの人と比べて、どれくらい自分が相対的に豊かであるかという認識は、行動のあらゆる部分に影響を与え、その結果、健康に影響がもたらされる。
この論文は、必要が起きた時に読んでいて、読むのは今度で5回目くらいだと思うけれども、少しずつ、議論のコアが実感できるようになってきていると思う。あと5回くらい読むと、目からうろこが落ちて、本当のコア部分がわかるのかな。