江戸川乱歩『人間椅子』角川ホラー文庫・江戸川乱歩ベストセレクション1(東京:角川書店、2008)
研究している時代の小説はたくさん読むことにしている。19世紀半ばのイギリスの精神医療の歴史の研究をしていたときは、ディケンズやギャスケルやブロンテなどをたくさん読んだ。江戸川乱歩の小説を読むと、同時代の精神医療のことが分かる理解度が増すのではと思って、たくさん読んでみることにした。「角川ホラー文庫」に収録されているベストセレクションは薄い文庫で8冊だから、造作ない量である。
研究している時代の小説はたくさん読むことにしている。19世紀半ばのイギリスの精神医療の歴史の研究をしていたときは、ディケンズやギャスケルやブロンテなどをたくさん読んだ。江戸川乱歩の小説を読むと、同時代の精神医療のことが分かる理解度が増すのではと思って、たくさん読んでみることにした。「角川ホラー文庫」に収録されているベストセレクションは薄い文庫で8冊だから、造作ない量である。
「人間椅子」「目羅博士の不思議な犯罪」「断崖」「妻に失恋した男」「お勢登場」「二廃人」「鏡地獄」「押絵と旅する男」が収録されている。このうち「人間椅子」と「鏡地獄」は読んだことがあったが、あとは初めて読んだものばかりである。暗示をかけあって、お互いに何も話さなくても了解のうえで完全犯罪が進んでいく話(「断崖」)や、まさしく夢遊病を扱った話(「二廃人」)などがあった。主要な登場人物のほとんどは精神異常であるか、ストーリーの中で精神異常が進行する。「鏡地獄」は主人公が発狂して終わる。
「押絵と旅する男」は、私は初めて読んだが、傑作の部類に入るだろう。浅草の十二階、遠眼鏡、覗きからくりの押絵の中に主人公が「入っていく」という、ドリアン・グレイを思わせる趣向になっている。