半藤一利『日本のいちばん長い日』

半藤一利『日本のいちばん長い日』
8月15日の終戦の詔勅のラジオ放送の前の24時間の日本政府の様子をたどったドキュメンタリーである。子供の頃にTVで放映された映画を観た記憶がある。

主役は陸軍である。陸軍は、日本の軍国主義化、中国の侵略と戦争の泥沼化、本土決戦論と一億総玉砕と、この時期の悪役のナンバーワンということになっている。この書物は、その考え自体に反対しているわけではないが、終戦前の陸軍の滅びへの道程を美しく描き出している。特に好意的に描かれているのが陸軍大臣の阿南である。もともとは本土決戦を強硬に主張していたが、ご聖断がひとたび下るや無条件降伏を受け入れ、陸軍をまとめてその終焉へと向かわせて自決したありさまは、このドキュメンタリーの中心である。反乱を試みて終戦を阻止しようとした陸軍の青年将校たちも、愚かで頑迷な軍人としてではなく、国体について思い悩んだ末の少数意見として描かれている。

ここに描かれた滅びゆく男たちの美しい絵姿は、終戦と戦後の日本にある種の威厳を与えたに違いない。そのことは多くの日本人が認めるだろうし、認めたいことである。この書物が持つ危険は、麗筆で描き出された武士たちの死の間際の威厳が、より大きな視点で見た「終戦」という現象の最も重要な部分であると誤解させることであろう。