医師/政治家というキャリアについて

Digby, Anne, “Medicine, Race and the General Good: The Career of Thomas N G Te water (1857-1926), South African Doctor and Medical Politician”, Medical History, vol.51, No.1 (2007): 37-58.
医師であり政治家であった人物の分析は、医学史上の一つのリサーチ・テクニックである。イギリスとフランスについてまとまった有名な研究が存在していて、19-20世紀のフランスで医師で国会議員であった人物を組織的に分析したEllis の著作と、Cooterが同じ時期のイングランドの議員であった医師を分析した論文である。この論文は、ベテランの研究者が南アフリカの医師・政治家である Thomas te Water を取り上げたものである。

開業医として成功し、性病、結核、ハンセン病などの公衆衛生の側面を持っている問題に入り、そこから「論理的に」政治の世界に入っていく。国家の政治にかかわって19世紀末に成立した多くの重要な医学関連の立法に関与し、選挙区では医学以外の問題にももちろんかかわった。一つのポイントは、医師が公的な医療を行って「公人」になるという近世以降のヨーロッパに特徴的な構造であり、もう一つはこの時期が性病や結核などの慢性感染症が、法と政策によって公共的に対抗される問題になった時期であったことである。

日本では帝大の生理学教授から文部大臣となった橋田邦彦がまず思い浮かぶし、石黒忠悳をはじめ、陸海軍で軍医総監などの高位についたものが男爵となる仕組みが存在したから、そこから貴族院に選任されて政治家となる仕組みも存在した。このあたりの構造を調べると、ヨーロッパやその植民地との違いが分かるのかもしれない。