『千夜一夜物語』の反ユダヤ主義

千夜一夜物語』に「マスルールとザイン・アル・マワシフの恋」と題された物語があり、大場正史訳だと第10巻におさめられている。商人のマスルールが、金持ちで美しい人妻であるザイン・アル・マワシフとの恋を成就させる話である。二人がチェスをさしながら恋の駆け引きをする場面に新鮮味を感じた。

 

大切なことは反ユダヤ主義である。マスルールはキリスト教徒で、ザイン・アル・マワシフは老人のユダヤ人と結婚しているユダヤ教徒である。ザイン・アル・マワシフの夫は、あくどく、愚かで、猜疑心が強く、皆に蔑まれて、最後にはひどい目にあう人物である。若い恋の主人公たちの邪魔をする老人の夫という『デカメロン』に登場しそうなキャラクターであり、あくどいユダヤ人ということだと『ヴェニスの商人』のシャイロックにも通じている。この物語の最後は、人妻が自分の召使いに命じてユダヤ人をだまして生きたまま墓場に埋めて殺し、恋する二人はイスラム教に改宗して、二人は結ばれて末永く幸せに暮らしました、というエンディングである。反ユダヤ主義はキリスト教に特徴的であり、イスラムは多種の宗教を共存させてきたと思い込んでいたという無知があるので、非常に反ユダヤ主義的な『アラビアン・ナイト』の物語に少なからず驚いた。それが性愛の喜びを謳いあげた秀作であることも違和感があった。あるいは、ここにも、バートンの筆が入った結果、反ユダヤ主義が強調されているのだろうか。

 

・・・いつまでも、これはバートンの筆なのかと悩んでいても仕方がないので、とうとう、ペンギンから新たに出た三巻本のアラビアン・ナイトを注文した。バートン以来、英語への完訳は100年以上にわたって出なかったが、英語圏の新たなアラビアン・ナイトを始めることになった重要な著作である。アマゾンのサイトは以下のとおり。アラビアン・ナイトについてのBBCのトーク番組のサイトもリンクしておく。

 

http://amzn.to/1gXJ8UX

 

http://www.bbc.co.uk/programmes/b0081kdb

 

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