「バイオプロスペクティング」―生態系と文化圏の違いを「乗り越える」製薬業について

Markku Hokkanen, “Imperial Networks, Colonial Bioprospecting and Burroughs Wellcome & Co.: The Case of Strophanthus Kombe from Malawi (1859–1915)”, Soc Hist Med (2012) 25 (3): 589-607.

Abena Dove Osseo-Asare, “Bioprospecting and Resistance: Transforming Poisoned Arrows into Strophantin Pills in Colonial Gold Coast, 1885–1922”

Soc Hist Med (2008) 21 (2): 269-290.

長井長義が麻黄からエフェドリンを析出したことに関連する現象を論じた論文をチェックした。 近年の医療人類学者・医学史研究者が<Bioprospecting バイオプロスペクティング>と呼ぶ概念である。生態環境が大きく違い、文化圏が異なり、さらには近代化と文明化の程度に大きな差がある地域について、それまで伝統的に別の仕方や原始的な水準で用いられてきた植物や微生物から薬品を作り出すことを言う。この二つの論文が扱っているのは、アフリカで毒矢の毒物を取るのにつかわれてきた植物から強心剤が作り出されたという19世紀末から20世紀のエピソード。アフリカの「ストロファンツス属」なるキョウチクトウの仲間 [ 何を言っているか分かるようにチェック] の植物は、マラウィや黄金海岸の原住民が矢毒を作るのに用いていたが、イギリスからの探検者・博物学者・医者が、それらを用いて薬を生産した。生物多様性が高い地域の伝統的な利用から、近現代の科学技術を介した商品が作られる構造を通じて、世界の先進国とそうでない地域の関係が作られることとも関係ある。

 

面白いコンセプトである。10年前に出た必読書があるから、これを読んでおくこと。Cori Hayden, When nature goes public : the making and unmaking of bioprospecting in Mexico (Princeton: Princeton University Press, 2003)