病院の歴史―マンチェスター
Pickstone, John V., Medicine and Industrial Society: a History of Hospital Development in Manchester and its Region, 1752-1946 (Manchester: Manchester University Press, 1985)
著者はイギリスの医療の社会史を牽引した大立者の一人。マンチェスターのNHSと協力して、マンチェスター地域の病院の社会史を展開した姿は、多くの地域・大学における医学史研究の展開のモデルになっていた。イギリスでは、あのロンドンのウェルカム研究所でさえ、ロンドン地域の病院を研究する地方史と密接な関係を持っていた。
マンチェスター地域の病院の歴史についての重要なポイントをメモ。18世紀後半から20世紀初頭の病院を三つのパターンにわけること。ヴォランタリー・ホスピタル、救貧法病院、隔離病院である。ヴォランタリー・ホスピタルは、人々に寄付を募って、年に2ギニーの寄付をすると外来患者を2人、入院患者を1人紹介して無料で治療してもらえる仕組みで、18世紀のイギリスで大流行した。しかし、これは公衆衛生の仕組みとは異なったもので、天然痘や梅毒をはじめとする感染症にかかった患者は入院することができない仕組みであった。ついでにいうと、産婦、乳児・幼児・小児、精神病者、不治の病に侵されたもの、死が迫ったものも入院できない仕組みであった。寄付者の紹介を受けてヴォランタリー・ホスピタルに入ることが、イギリスにおける病院の雛型であった。
もう一つが、ディスペンサリーの機能の問題である。ヴォランタリー・ホスピタルが病床を軸にしていたのに対して、ディスペンサリーは病床がなく、外来の患者であった。とすると、ディスペンサリーは、いったん診た患者について、患者の自宅に赴いて診療や療養の指導を続けるという方向があり、もう一方では、その逆に、外来でみた患者を病院に送り込むという方向を持っている。これまでは、家庭―個人開業医・診療所・ディスペンサリーー病床付き病院という三階構造の最終部分を「病院の歴史」という形でみてきたが、第二の段階である開業医やディスペンサリーを軸にして、病院が利用できる場合には病院に送り込み、そうでない場合には家庭に送り返してそこと協力すると考えるとわかりやすいのではないか。より具体的には、精神病院の発生と機能を理解できるのではないか。