犯罪の原因としての狂気・処罰としての狂気

Padel, Ruth, Whom Gods Destroy: Elements of Greek and Tragic Madness (Princeton: Princeton University Press, 1995).

Padel, Ruth, In and Out of the Mind: Greek Images of the Tragic Self (Princeton, NJ.: Princeton University Press, 1992).

ルース・パデルはイギリスの名家に生まれた文筆家である。祖母がチャールズ・ダーウィンの孫ということだから、ご本人はダーウィンの玄孫である。現在は詩人・批評家であるが、かつては古典学の研究者であり、ギリシア悲劇における狂気が研究の大きな主題であった。1990年代に書物を二冊書いている。

 

ここでは詳しく書かないが、単にギリシア悲劇の狂気論というだけでなく、本質的な問題を衝いた分析である。それは、狂気によって人は罪を犯すという主題と、犯した罪に対する処罰として狂気になる主題の二面性の問題である。犯罪との関係で、原因としての狂気と、処罰としての狂気の二面性・対立・融合という問題である。

 

妄想でも錯覚でもいいが、精神疾患の症状に導かれて罪を犯すという主題は多くの社会に存在する。一方、それと同じくらい重要なのが、ある人物が何らかの罪を犯すと、その処罰として神や超自然的な存在がその人物を狂気にするという主題である。ギリシア悲劇において、後者の主題の中心は、エリーニュース(復讐の女神)であり、母親のクリュタイムネストラーを殺したオレステースである。母を殺すという恐ろしい犯罪に対する処罰として、エリーニュースはオレステースに取り憑いて彼を狂気として、どこまでも追いかけていく。この主題はアイスキュロスエウリピデスによって描かれている。(裁判の部分の説明があまりに複雑になることを恐れて授業ではエウリピデスを用いたけれども、やはりアイスキュロスを用いるべきだったと思う)

 

 

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