松岡秀明「ハンセン病と短歌―映画<小島の春をめぐって」

松岡秀明さんに論考「ハンセン病と短歌―映画<小島の春をめぐって」を頂いた。『小小島の春』は、長島のハンセン病療養所に勤務し、ハンセン病患者の医療に携わった医師、小川正子の回想的な小説である。1938年に出版されてすぐに大ベストセラーになり、22万部が売れた。その成功を追って1940年に映画<小島の春>が製作された。監督は豊田四郎で、主演は夏川静江、ハンセン病患者に菅井一郎、その妻に杉村春子、子役に中村メイ子が出演している。この映画も成功し、1940年の『映画旬報』の優秀映画で第一位となっている。

 

この論文は、原作の小説にも映画にも、短歌がしばしば挿入(スーパーインポーズ)されることに注目している。ハンセン病と短歌といえば、この映画にもあらわれた明石海人をはじめ多くのハンセン病歌人がいるほか、大正天皇の后であった貞明皇太后が1932年に「つれづれの友となりても慰めよ 行くことかたきわれにかはりて」という短歌を作り、これが隔離収容という政策の前に苦悩していたハンセン病患者たちに受け入れられ、隔離収容を正当化する役割を果たしたという。映画に登場する明石海人とその短歌も、隔離収容を美化する役割を果たす。 この映画を評論したハンセン病を専門にした東大教授であり、歌人でもあった太田正雄(木下杢太郎)が言うように、この映画を観ると、最初は「癩問題」ということを意識するが、いつかそれを忘れて医師である小川の純粋な行為に魅了されるようにつくられているという。

 

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