喫茶養生記

陸羽 他 茶経 . 喫茶養生記 . 茶録 . 茶具図賛. 高橋忠彦訳注. 淡交社, 2013. 現代語でさらりと読む茶の古典.
 
喫茶養生記』は苦手な本の一冊である。苦手だから読んでないという恥ずかしい本は数えきれないほどあるが、『喫茶養生記』は何回か現代語訳を読んだことがあるが、それでもわからないという別種の恥ずかしさを持つ本である。私が茶道をしないことや、中国医学がよくわかっていないこと、仏教の思想にも弱いことが、喫茶養生記が苦手な度合いが高まっている理由であろう。 特に、前半がお茶の医学上の効果の話をしているのに、後半は桑の医学的・宗教的な効果の話をしているのに、タイトルが喫<茶>であって桑はどうしたというのは謎である。
 
その中だが、私が頼りにしているのが、この新書本の現代語訳と解説である。この本がどんな本で、どんなヴィジョンであるかが、きちんと説明されている。基本は末世への対策であり、五臓の中心である心臓を茶の苦みで強め、鬼魅が原因である流行病を桑で抑えることであり、それらの植物を世界の文明の先端であった中国の浙江からとったというのである。「五臓の主たる心臓の強化には、苦みを主とする茶の摂取が必要だという主張と、流行病の治療には、その原因の鬼魅が嫌う桑の利用が有効だという主張がそれぞれ述べられているわけです。茶と桑がともに浙江で多く生産されていた植物であることも、このような書物になった理由なのでしょう。茶にせよ桑にせよ、栄西は一貫して、病気の治療や健康の維持といった<養生>の手段として力説しているのであり、いわゆる喫茶趣味を述べていないことは確実です。」