坂出祥伸編『中国古代養生思想の総合的研究』

坂出祥伸編『中国古代養生思想の総合的研究』(京都:平河出版社、1988)をチェックして、古代中国の医学史についての、そびえるようなスカラシップに驚嘆する。大杉徹「『山海経』の「山経」にみえる薬物と治療」や、米田該典の医書の薬物の地理的な分析などが面白かった。

この先生の論文が入っているとは知らなかったが、ラシュディの『悪魔の詩』を翻訳したのちに、1991年に暗殺された五十嵐一先生の文章があった。五十嵐一イスラームにおける養生法―桑林の舞からスーフィー旋舞へ―」751-766.である。一節を抜き出す。

カーフ山の空高く舞うシーモルグの姿は、そのままスーフィーの旋律と二重映しになる。自己自身の真の知識は自らの養生法に向けられ、彼に養われてあるという真実の状態を悟ったときに心は開け、ひとつの舞いの状態に入る。そしてエクスタシーのうちに実現するスーフィーの施舞は、かつて「養生主篇」を著して修行道を説き、その完成形態を桑林の舞いに喩えた荘子の原イマージュとも共鳴しているのではなかろうか。桑林の舞いからスーフィー旋舞へとシルク・ロードは接続している。いやさらに、天高く舞うシーモルグの飛翔の射程には、イランも中国もさらに全世界までが入っていたのではなかろうか。 764