今日のEconomist Espresso におけるとても面白いグラフ。20世紀における戦争の死者を掲げたグラフであり、授業などで用いるのにとても便利である。基本は、20世紀の戦争における兵士と市民の死者数を、人口10万人あたり何人かの比率で示している。ジェノサイドやホロコーストは含めていない。
まずはヨーロッパが、兵士・市民を圧倒的に多数の割合で殺害してきたということ。理由はもちろん第一次世界大戦・第二次世界大戦によるものである。このグラフは改めて見ると近現代のヨーロッパの残虐性をまざまざと示してくれる。次に、アジアがかなり強い割合でヨーロッパに次ぐ2位に入っていること。その最大の理由は1930年代に始まる第二次日中戦争であることである。この点も、当時の日本の残虐性を示している。
最後に、これは医学史研究者としての驚きである。「疾病での死者に比べて戦争での死者はそんなに少ないのか」というパターンは繰り返され、このことも言われてみたら知っていたはずだが、改めて新鮮な思いをすることの確認でもある。ヨーロッパ全体が二つの大戦で出す死者は、多い時ですら10万人あたり150人から200人くらいである。19世紀前半の結核の死亡率は、実はこれよりもはるかに高いし、結核の死亡率は国際的には低かった日本においても、兵士の死亡率は結核の死亡率よりもはるかに低い。いくつかの図をたしておきましたので、参考にしてください。
良いニュースは、ヨーロッパでも日本でも1950年以降の戦争による死者数は激減していることである。この事実が日本の改憲の議論にどうかかわるか分からないが、私はとても重要なポイントだと思う。
図版はいずれも次の論文から。 Holloway, K. L. et al. "Lessons from History of Socioeconomic Improvements: A New Approach to Treating Multi-Drug-Resistant Tuberculosis." Journal of Biosocial Science, vol. 46, no. 5, 2014, pp. 600-620, Cambridge Core, doi:10.1017/S0021932013000527.