ウィリアム・セシルと博物誌と日本の植物

 
ウィリアム・セシル (William Cecil, 1520-1598) は、イングランドエリザベス女王重臣である。初代バーリー男爵となり、その後の政治的な名門を作り上げた。BBCの In Our Time で鼎談を提供しており、とても面白い。最後の雑談の部分で、彼の文化志向が語られており、ペルーや日本の植物なども所有していたと言っていた。これは、イタリアやオランダなどで確立していた、知識人や政治家が、人文主義と博物誌の両方を持つようになったということである。レオナルド・ダ・ヴィンチなどを思い出せばいい。あるいはのちのイングランドだと、フランシス・ベーコンを思い出せばいい。セシルが世界の博物誌と接触があった理由は、当時のイングランドでも、そのような学者・知識人たちが成長している過程だったからである。少し調べたら、セシルが庇護した人物はイングランドのジョン・ジェラード (John Gerard, c.1545-1612) だった。ジェラードは、1000点以上の植物を記載している『薬物学』という大作を書いている。残念ながら、かなりの部分がオランダのドドネウスなどのラテン語書の英訳であるが、彼自身が観察した部分もある。私が手元に持っているのはジェラードの著作からの抜粋であり、 おそらく先行研究者の作品の剽窃である(笑) そこには、ジャガイモなどの新世界から来たものの記述はあるが、日本はそれには載っていなかった。16世紀に伝わっている日本の植物、私が知らないのは恥ずかしい話ですが、何なのでしょうね。
 
16世紀にイングランドの新しい政治家と新しい手持ちの知識の持ち主が手元にもっていた日本の植物。おそらくそれを集めた、当時はちょっとできる程度の薬種商が行った剽窃行為。それからしばらく経って18世紀になると、イングランドが優れた博物誌の社会になること。剽窃行為の意味を考えさせますね。
 
Gerard, John et al. Selections from the Herball, or, Generall Historie of Plantes : Containing the Discription, Place, Time, Names, Nature, & Vertues of All Sorts of Herbes for Meate, Medicine or Sweet-Smelling Use, Etc. Velluminous Press, 2008.
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