書物だけから情報を取り込む博物誌

張華. 張華の博物誌. 小澤建一訳 ブイツーソリューション, 2013.
 
張華は232年に生まれ300年に没した。文人であり多くの書物を読んで収集していた。宗教と思想が興隆した時期であり、道教の不老不死の考え方や身体論が展開されている。儒教ではなく、テキストでいうと『荘子』『列子』『淮南子』などの老荘思想が重要な背景である。そのため、異境の人類や怪獣などを描く場合には『山海経』を中心に描かれており、腹に大きな穴が通じている人類や、奇形が標準という人類が中心になる。
 
訳者の小澤先生は、このような特徴を取り上げて、ギリシアの古典古代のアリストテレス『動物誌』やプリニウス『博物誌』と比較している。アリストテレスプリニウスの記述では、分類という概念によって整理され、ある体系性を保ってはいるが、張華の『博物誌』は、空想と現実存在の分別さえままならぬ、前分類の地点に留まって、自然史的知の世界を構築しているとも言える、という。
 
この書物は、膨大な書物に基づいて成立したという。書物が好きで、発見された蔵書が30台の車に載せる程あったという。それを「宮廷内の世界から外へと殆ど足を運ぶことなく、成立した」という。裏返すと、フィールドワークがなかったということである。現実の世界、地理、人々、自然、動物、植物に触れずに、高級な書物のコレクションの中から情報を収集することにした「博物誌」であるということである。
 
小さなメモ
 
方術と方士。古代中国で、卜筮(ぼくぜい)、医学、錬金術などの訓練と熟練を必要とする術を方術といい、それをマスターした人々のことを方士と言う。道教が成立すると、似たようなことをする人物を道士という。方士から道士への移行の時期としては晋代の時期だから、3世紀から5世紀である。卜筮は、中国語読みだと bu shi.  卜は亀甲を焼いて亀裂を起こし、それに基づいて予言すること。筮は、竹のようなものを一定の方法で並べて吉凶を占う術。易経が成立して、卜は衰退して筮が重要になった。