日記と自伝と症例の史料について

Burnett, John. Useful Toil: Autobiographies of Working People from the 1820s to the 1920s. Penguin Books, 1977. Pelican Books.

20世紀の末は、思想史の考え方と民衆史・社会史の考え方が、いずれも大きな波を作っていた時期であった。後者の流れを作っていた一つの主流が、この書物である。これを用いたメモ。まだ雑です。

20世紀の後半の医学史における患者の歴史への転換や重心の移動を考えたときに、日記や自伝が大きな史料として考えられていた。ことに、患者の側の歴史を考えたときに、患者が経験した医療が記録されている日記や自伝が非常に重要になる。

医療だけでなく一般の文化の視点では、イギリスではバーネットの Useful Toils (1977) が記念碑的な著作である。Useful toils は、19世紀から20世紀にかけての、労働者、家庭での使用人、熟練した労働者などに関して、彼らの日記や自伝を30点ほど集めた資料集であり、当時のイギリスが近代社会を急速に形成していく大きな社会の変化が、労働者の個人の人生に影響を与えるありさまが伝えられている。貴重な資料集であることは現在でも疑いない。

しかし、バーネット自身が、このような日記や自伝は当時の社会からランダムに選ばれたサンプルではなく、強いメッセージを込められたものであることを指摘している。日記を公開することや、自伝を公表・出版することである。そこには、何らかの動機を持ち、それに基づいたメッセージが込められていることが非常に多い。自らの成功の記録であり、なぜ困難が発したのか、それをどのように克服したかなどが、読み手に伝えられる。私たち医学史の研究者たちも、面白い史料、医学的、政治的、社会的に雄弁な史料を用いて、精神医療のある側面を鮮明に伝える事例を選ぶ。