ラブレー『ガルガンチュア』第五章

―抜いてくれよ!
―こっちへ寄こせ!
―廻してくれよ!
―水を割って、な!
―俺は、水なしにしてくれ・・・。とっ、とっと、そのくらい。

ラブレーの『ガルガンチュア』の第五章に、「酔っ払いがくだをまく」と題された有名な章がある。私は渡辺一夫の訳で読んだことがあるだけだけれども、中世から近世のヨーロッパで、酒を飲む宴会のような空間でざわめく人々の言葉が伝わるような素晴らしい章になっている。「中世から近世」と書いたけれども、いまはこういうお酒を飲む空間があるのかなあ。ヨーロッパではそのようにお酒を飲む空間がまだあるような気がしている。行ったことはないけれども、ドイツのビアホールがそのような感じなのかもしれない。

で、これまでは基本的に、酒を飲む場所の雰囲気を捉える箇所だと思っていたのだけれども、今日、久しぶりに読み返して、少し別の可能性に思い至った。『ガルガンチュア』の冒頭部分は酒飲みを礼賛するトーンが強く、文章を読んでいると、こちらが酔っぱらうのではないかという気がするほどである。ここは、飲酒が精神に影響を与えるさまを言語化しているのではないか。ハクスリーやアンリ・ミショーがメスカリンの影響を記したり、ベンヤミンがハシシを記録したのと同じような狙いで、というと素人っぽくなるけれども。