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診断名と病訴の問題

Bentall, R. (2006). "Madness explained: why we must reject the Kraepelinian paradigm and replace it with a 'complaint-orientated' approach to understanding mental illness." Med Hypotheses 66(2): 220-233.

 

精神疾患の患者に対する理解の仕方について、クレペリンに起源をもつ診断名称からではなく、 “complaint-orientated” という方法を用いた方が良いという議論。これは私の経験から言うことだが、歴史研究、特に症例誌を用いた研究においては、機械的に診断名に頼るより、患者が具体的に何をして入院したのか、どんな病訴があったのかという分析につながるこの方法がはるかに優れたものであるのは明白である。実際、これは私自身が行っていた方法なので、自分の方法を説明するときには、この論文と、もとになっている書籍を引用して議論することにした。もちろん、精神科の臨床の世界で診断名を使わないというのは極端な話だろうが、実際は診断名ではなくて complaints で動いているのだろうとも思う。

 

議論の骨格は簡単である。クレペリンと彼を模範とする精神医学は、精神疾患を幾つかの区切られるタイプに分け、狂気と正常の機能に明確な境界線を引くことができると考えた。しかし、個々の精神疾患の患者を見ると、これらの区切りはうまく機能しない。個人を理解するためには、hallucinations, delusional beliefs, thought and communication disorders のような、complaints からそれぞれの個人の問題を理解するほうが適切である。実際、歴史において個々の患者の問題を生活と環境の中で理解するには、診断名よりもこのような complaints を軸に理解するのがよい。