19世紀後半の二つのエルニーニョが世界に巨大な影響を与えたことを論じた書物を読む。
昨夜読み始めて、余りに面白かったので、だいぶ読み飛ばしながらだけれども、今日の午後に一気に読んでしまった。気候の歴史と洗練されたグローバル・ヒストリーを絡めた傑作である。
1870年代、そして1890年代から20世紀初頭にかけての二回にわたって、世界の各地でエルニーニョが惹き起こした旱魃と飢饉が同時発生的に起きた。インド、中国、東南アジア、アフリカ、南アメリカの各地で、数百万の甚大な死者を伴う大損害が出た。還元主義的な気候史研究だと、これが結論になってしまうところだが、本書はこれを出発点にして、気候変動と帝国主義の政治経済史の複雑な関係を描いている。
飢饉に打撃を被った地域の社会的な動揺につけこんで、欧米諸国は帝国主義的な進出を進めた。日本が1870年代の朝鮮に圧力をかけたのも、飢饉がきっかけであった。一方で、飢饉は欧米や無力な現地の支配者に対する抵抗運動も同時的に生む。1870年代と90年代には、飢饉を核にして、各地で帝国主義的な進出が激化し、一方でそれに対する反抗も盛り上がった時期であった。(義和団やマフディなど)エルニーニョは、各地でそれぞれ複雑に媒介されて(このあたりは、門外漢の私は面白く読んだが、なにせ世界中をまたにかけた記述だから、専門家に言わせたら色々と不備があるところかもしれない)、帝国主義の絶頂期のステージを作り出したのである。1870年代、そして1890年代から20世紀初頭にかけての二回にわたって、世界の各地でエルニーニョが惹き起こした旱魃と飢饉が同時発生的に起きた。インド、中国、東南アジア、アフリカ、南アメリカの各地で、数百万の甚大な死者を伴う大損害が出た。還元主義的な気候史研究だと、これが結論になってしまうところだが、本書はこれを出発点にして、気候変動と帝国主義の政治経済史の複雑な関係を描いている。
一方で、エルニーニョ起源の飢饉による被害がこれほど大きくなったのは、世界各地の農村が、輸出用の商品作物の栽培へと流れて自給自足経営を捨てていたことが背景にあること、この飢饉は非西欧の農村の貧困を悪化して、西欧による搾取の構造を激化・固定化して、後の「第三世界」の基本構造を作り上げたことなどが論じられている。このあたり、飢饉を盛んに研究している私の同僚などが読んだら、色々と文句があるだろうが、門外漢の私は面白く読んだ。
当然頭に浮かんでいた疑問の一つは、日本は?というものだった。この気候変動の影響はなかったのだろうか?この本には、悲しいくらい言及がない。エルニーニョが各地の気候に及ぼす影響はさまざまだったのだろうが、何か変化があったんじゃないかと思うんだけど。
二つほど個人的な話を。この本の翻訳が出ているかもしれないと思って探したが出ていないようだった。その代わり、同じ著者の『要塞都市LA』が青土社から翻訳されていた。この本の訳者の一人である村山先生とは、何度か一緒にお仕事をさせていただいたことがある。村山さん、もう一冊同じ著者の本を、いかがですか? それから、インドの章で、こちらも何度か一緒にお仕事をさせていただいた脇村先生の論文が引用されていて、知らない街で知人にあった嬉しさがあった。
文献は Davis, Mike, Late Victorian Holocausts: El Niño Famines and the Making of the Third World (London: Verso, 2001).
画像は、アメリカ海洋気象庁より、2005年1月25日の海流。どう読むのかわからないが・・・