若草物語・ナース編


ある論文を読んでいて、ルイーザ・オルコットが看護婦としての経験を書き綴ったテキストがあることを知る。こういうテキストというのは、読みたくなった時が勝負で、メモしておいて後から借り出して読もうと思っていると、一生読めない。(そういう to read 本のリストが50ページくらいある・・・)オルコットなら、おそらく・・・と思って、Project Gutenberg を検索すると・・・あった! というわけで、締め切りを幾つも抱えているにもかかわらず、1時間くらいかけて、今の仕事とは何の関係もないテキストを読みふける。

若草物語』で有名なルイーザ・オルコットは、まだ無名の物書きだった頃の1862-63年にかけて6週間ほど軍陣病院で看護婦の仕事をしていたことがある。この時の経験をもとにして書かれたのが、1863年に出版された『病院スケッチ』である。これは、オルコットが書いたもので初めて注目されたもので、彼女が成功した作家としての道を歩むことになったきっかけである。この5年後に、不滅のベストセラーとなった『若草物語』が出版される。
 
 もちろん、読みたい!と思ったときに読んだテキストだから、とても面白かった。19世紀半ば、ナイティンゲール・ブームの直後に看護婦を志願した中産階級の女性の動機も描かれているし、戦争神経症の患者の話もある。ハンサムで独身で「よい患者」の理想を体現したかのような患者が、最後にオルコットを呼んで死んでいく場面は、ロマンティックな(あるいはセクシャルな)感情を表に現さないヴィクトリア朝文学の醍醐味を味わえる。

 それ以上に面白かったのは、この『病院スケッチ』がコミカルなタッチで描かれていることである。私は『若草物語』を英語で読んだことはないから、これがはじめて英語で読むオルコットだが、ヒューモラスな文体はとてもディケンズに似ていると思う。大げさな表現を滑稽に使う効果や、深刻なことを軽めに書くあたりである。「ジョージタウンの軍陣病院って、チョーすごいのよ。右に肺炎、左にジフテリア、向かいに腸チフスが5人、あとボロボロの男たちが1ダース、そいつらがみんな、私を見てんのよ。だから、できるだけ威厳を持っているようなふりをしていたんだけどさ、私だってうら若い乙女だし、そんなふりできるわけないじゃない?」という感じのノリである。(下手な訳でごめんなさい・・・)

 看護婦を中心にしたコメディは、現代でも人気があるジャンルだろう。私はTVをあまり―というかほとんど―観ないので、『ナースのお仕事』という人気ドラマが存在することくらいしか知らない。しかし、あの観月ありささんが主演しているドラマは、安っぽいように見えて、意外に伝統ある「トポス」だったんですね。

文献は、Louisa May Alcott, Hospital Sketches (1863). なお、これはエレーヌ・ショーウォルターの編集・解説で、Alternative Alcott (New Brunswick, NJ.: Rutgers University Press, 1988) に収録されているそうである。