18世紀ヨーロッパの牛疫(リンダーペスト)の対策を論じた論文を読む。文献は、Huygelen, C., “The Immunization of Cattle against Rinderpest in Eighteenth- Century Europe”, Medical History, 41(1997), 182-196.
牛疫については、19世紀末にアフリカの牛を壊滅させ、牛に依存した産業と生活の構造を破壊した例を、少し前に取り上げた。18世紀のヨーロッパでも合計二億頭を倒したと言われている長い流行があったそうだ。この流行と、それに対する対策が、意外に面白い。最初期の著者はパドヴァ大学の教授で労働医療の祖と言われるベルナルディーノ・ラマッツィーニ。彼が天然痘との類似に最初に注目した。病気の感染性が分かると、罹患した牛を隔離したり殺したりする方法が唱えられる一方で、当時確立しつつあった人痘の方法で牛疫を予防できるのではないかと考える人々も現れた。第一号は、1754年に、当時人痘を提唱していた雑誌『紳士雑誌』(Gentlman’s Magazine) に、牛疫に対して予防接種で対抗しようとして成功した紳士の話が出る。その記事はすぐにイギリス国内のみならず大陸からも注目されて、オランダ、デンマーク、ドイツ諸邦などで実施されたという。予防接種を実行する行政的な枠組みを発動させるのが難しく、あまり効果はなかったそうだけれども。
天然痘と同じモデルで理解され、それと同じ予防法が実際に取られた病気として、牛疫があったということは、私は知らなかった。