病草紙

 同じく新着(?)雑誌から。有名な『病草紙』の分析。文献は、小山聡子「『病草紙』製作と後白河法皇の思想」『日本医史学雑誌』51(2005), 593-614.

 『病草紙』という有名な絵巻物がある。後白河法皇の命によって12世紀に製作されたもので、さまざまな病気にかかった病人、あるいは障害を持つ男女の姿が比較的リアルに描かれている。これは『地獄草紙』『餓鬼草紙』などと一連の作品をなし、罪ゆえに苦しみに満ちた六道から脱して極楽浄土への往生を願う当時の貴族の信仰心に端を発しているという。しかしその一方で、この絵巻物を眺めてみても、そこには人間の苦しみに対する同情心は感じられない。それどころか、猟奇趣味的なグロテスクなものへの興味や、奇怪な病気にかかった病者を嘲笑するようなまなざしすら感じられるという。このあたりの印象論的な判断というのは難しいところである。 私自身、この絵巻物には印象論以外には何も持っていないが、下のリンクを見ていただくと、両性具有の図は、嘲笑しているほうがむしろ醜いような気もするけれども。 

 この筆者は、これを階級性に結び付けて考えている。法皇を含めた絵巻物を描き出す側の貴族たちは、善行も積んでいるし、自らの救いについて確信を持っていた。彼らにとって、グロテスクな病人というのは、身分が低い芸能者であり庶民の上にかぶせられるべきイメージであったというのだ。それが、シンパシーを欠き、嘲笑すら感じられる病人の描かれ方に現れていると結論されている。 

 800年前の作品で、描かれた状況などを想像で補わなければならない作品の解釈である。説得力がある実証がそもそも難しい問題の立て方をしてしまっているという印象がある。それでも、私には勉強になったし、読んで楽しかった。