日本の更年期と北米のメノポーズ


 必要があって、日本の更年期の医療人類学を読む。文献は、マーガレット・ロック「女性の中年期・更年期と高齢化社会」脇田晴子・S.B.ハンレー編『ジェンダーの日本史』(東京:東大出版会、1994), 597-624. 筆者は日本をフィールドにした医療人類学の第一人者で、多くの編著書があり、翻訳されているものも多い。この論文を発展させたものが、私は読んでいないが、みすず書房から翻訳されている『更年期:日本女性が語るローカル・バイオロジー』なのだろう。

 議論のコアはシンプルだがとても重要である。同じ閉経期の女性に特徴的な病気でも、日本の「更年期」の概念と西洋の「メノポーズ」の概念は、異なったモデルで理解されているということ。欧米のメノポーズは欠乏症の概念で捉えられているのに対し、日本の「更年期」は自律神経の失調の概念で理解されている。 この違いが「更年期」と「メノポーズ」に対する治療や、患者の経験の違いを形作っている。北米のメノポーズはホルモン療法の対象になるのに対し、日本の更年期は心理・神経系の多様な治療法の対象となる。 もう一つの議論のコアは、日本における伝統的な家族構成、特に両親と息子夫婦の二組の夫婦が実際に(あるいは概念上)同居する直系家族に特有な家事、特に老人介護の負担が、日本の中高年女性の「更年期」の経験に大きな影響を与えていること。  

 画像は1980年代のアメリカの国立保健研究所のポスター。喫煙すると更年期が早くなる・・・って、きっと正しいのだろうけれども、確かに日本の「更年期」の中核をなすイメージではない。