古病理学 (paleopathology) の大作に目を通す。文献はRoberts, Charlotte and Margaret Cox, Health and Disease in Britain: from Prehistory to the Present Day (Stroud: Sutton Publishing, 2003).
イギリスの旧石器時代から現代まで、化石人骨の分析でわかる疾病・傷病の歴史をまとめた大作。一万二千年前から現代まで、311の発掘現場から得られた3万4千の化石人骨(そのうち半分は11世から15世紀の後期中世期である)の直接・間接の調査から、過去の社会の疾病について分かることを丁寧に列挙している。色々な場所から発掘された人骨の病理的痕跡の割合を示した一覧表が延々と続く。コロンブス以前のヨーロッパにも梅毒が存在した可能性が高いとか、後期中世の人骨の約1%に結核の痕跡があり、結核の大半が骨に影響を与えずに死に至らしめることを考えると、これは相当高いとか、そういう興味深いことも書いてある。
最終章で化石人骨を使った古病理学の可能性が熱く語られている。気持ちは分かるけど、正直言って、化石人骨で分かることというのは、あまりにも限られているし、その限られた指標についてもあまりにも曖昧な証拠しか提示しないというのが、常識的な見解だと思う。