20世紀初頭インドのコカイン

未読山の中から、20世紀インドのコカイン依存症を論じた論文を読む。文献は、Mills, James H., “Drugs, Consumption and Supply in Asia”, Journal of Asian Studies, 66(2007), 345-362.

20世紀の初頭からインドではコカインの悪用が深刻化した。もとは医学的な痛み止めや、性交のときに用いて射精を遅らせ快感を高めるためなどの目的で用いられていたものが、「リクリエーショナル」に使われ始めて深刻な依存症に陥ったものが医学雑誌に報告されるようになる。医学雑誌の報告は、富貴を問わず老若男女に中毒者がいると論じていて、1929年には、25万から50万人がコカインを取っていると推計されている。イギリスはコカインの密輸を禁止しようとしたが、第一次大戦以前はドイツから、それ以降は日本とその植民地からのコカインの密輸を防ぐことができなかった。日本のコカイン業者は「フジツル」などのブランドを作り出して(密輸のブランド品というのが面白い)インドの市場を制覇したが、インドでは「フジツル」というのはドイツのブランドだと思われていたそうだ。 

昭和戦前期には薬物中毒が大きな医学的な問題になっていて、私が見た範囲では医者のモルヒネ中毒が多いけれども、診断は「モルヒネ中毒」ではなく「神経衰弱」などになっていて、公的な記録では捕捉しにくいのだろうな。このあたりの歴史を研究している方がいましたら、ご一報ください。