赤坂真理『ミューズ』

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野間新人賞を受賞した作品で、それ以前の作品が精神と身体の解剖=病理学的なコアな世界に浸っていたのに対し、この作品はかなりメインストリームだという感じがする。ストーリーがあるし、登場人物(実質上は二人だけれども)は血が通っている。あ、他の作品の人物たちも「血が通っては」いるんだけど、それは臓器や組織や細胞を浸す体液があるという文字通りの意味のほうが強い(笑)

ストーリーは、霊能者と自称する母を持ち、少女時代に衆生の再生をかけた奇跡を起こすことに失敗しそれがトラウマになっている高校生と、歯列矯正の歯医者の間の恋愛の物語。彼女はモデルになりたくて、歯列矯正をしてくれる成城のお坊ちゃんの歯医者に恋をして彼に処女をささげようとするが、このトラウマのせいでそれができず、二人は結局別れることになる。タイトルの「ミューズ」は、歯医者の手に残る素敵な香りの元だった薬用石鹸のブランド名と、「詩神」のミューズの語呂合わせ。