障害の歴史

必要があって、フランスの障害の歴史の大作を読み直す。文献は、Stiker, Henri-Jacques, A History of Disability, translated by William Sayers, foreword by David T. Mitchell (Ann Arbor: The University of Michigan Press, 1997).

著者はフランスの偉い歴史学者で、この書物は、フランスを中心にして、西欧の障害の歴史を聖書の時代から現代までたどっている。そう聞くと概説書だと思いがちだけれども、これが非常に野心的な書物で、とても面白い。通史であるにもかかわらず統一が取れている印象を与えるのは、一つの新しい視点が全体を貫いているからである。その一方で、全体の統一を求める歴史書が陥りがちな、理論と枠組みが先行した粗雑さの印象を全く与えない。

新しい視点と書いたけれども、それはおおまかにいうと言語学的な方法で、障害を表現する言葉・概念に注目するものである。たとえば、今回読み直した20世紀の部分についていえば、英語で言うと「リハビリテーション」のように、再帰をあらわす re という概念が20世紀の障害を定位するようになったと主張されている。19世紀に中心的であった否定や欠如をあらわす in- という概念でなく、障害が生じる以前の状態に「戻す」という志向が20世紀の障害への対応の核となった。この概念が確立したのは、第一次大戦で発生した膨大な数の傷痍軍人をもとの生活に「復元する」ことが、国民の責任であるという発想であった。このパラダイムは、傷痍軍人を越えて、さまざまな障害を理解しそれに対処するときの鍵になったという。その結果、ある規範へと障害者を再適応させるように調整し、その適応の程度や様子をモニターすることが、医療を含めた障害にまつわるものの目標として設定されたという。