環境の健康・人間の健康

必要があって、環境史と医学史を結び付けた論文を読む。文献は、Mitman, Gregg, “In Search of Health: Landscape and Disease in American Environmental History”, Environmental History, 10(2005), 184-210.

20世紀前半の医学と環境思想の関係についての最良の論文である。ポイントはとてもたくさんあるけれども、一番面白かったことを一つだけ。それは、「ホリスティックな医学」と環境思想との関係である。この時期には、病原体が侵入すると人間は病気になるという単純な疾病モデルの破産は明らかになっていた。不潔な他者と清潔な自己というモデルで疾病を捉えていた医学者は、20年前の粗雑なカルスタ系の医学史の中にはたくさんいるかもしれないが、実際には、いたとしても非常に少なかったと思う。コレラ、ジフテリア、結核という病気が、次々と、はるかに複雑なモデルで理解しなければならないことが明らかになった。これらをくくる概念が、「ホリスティックな医学」であり「新ヒポクラテス主義」であった。とくに、ウォルター・キャノンの「ホメオスタシス」の概念は、生理的なバランスとして健康を捉えていた。この、キャノンの複数の要素のバランスとしての人体の健康の概念は、当時のエコロジーの成立に大きな影響を与えた。そして、エコロジーだけでなく、適正な人間社会を構想する政治思想にも影響を与えた。人体―自然―社会のいずれもを、複数要素間のバランスとして理解されたのである。これは、かなり目からうろこが落ちた。

それ以外にも、アメリカの「干草熱」(アレルギー)の誕生だとか、読み応えがある洞察が引き出されている分析が満載の論文。