診療報酬の力学

必要があって、日本の診療報酬が決まるメカニズムを論じた書物を読む。文献は、結城康博『医療の値段―診療報酬と政治―』(東京:岩波新書、2006)

日本の医療は医者と患者の双方にかなりの程度の診療と受療の自由を認めながら、医療の価格については国が一律に定めるという、世界でも珍しい仕組みを持っている。医療の価格は、注射一本にいたるまでその価格が詳細に決められ、「点数表」と呼ばれるものにまとめられている。例えば、精神科電気痙攣療法でいうと、「マスク又は気管内挿管による閉鎖循環式全身麻酔を行った場合は3,000点(3万円)。そうでない場合は150点(1500円)」といった感じで、細部にいたるまで定められている。この点数表は、厚生大臣中央社会保険医療協議会(中医協)に諮問して、中医協が答申したものがそのまま医療の価格になる形で、実は国会を通さずに決まっている。日本ではどんな医療をいくらで実施できるのか、役所はどんな医療を普及させたいのか、医者に何をさせたいのか、そして医者はどれだけの収入を得ることができるのか、そういう大事なことを決めるのが中医協の役割である。

中医協について論じた書物としては、私が読んだ数少ない本の中では池上直巳・J.C. キャンベルの『日本の医療』(中公新書)がとてもいい。(ほかに手軽でいい本があったら教えてください。)今回の書物も、中医協を取り上げるわけだから、もちろんかなりの部分はかぶっているが、池上・キャンベルの本では触れていないことに積極的に触れている。特に、日本歯科医師会や薬剤師会などを丁寧に論じている。また、池上らの書物が出た段階ではおきていなかった2004年の一大スキャンダルである、日本歯科医師連盟が初診料をめぐって中医協の委員に贈賄を行った事件も、一章を割いて説明されている。これをベースにして、診療報酬に政治がからむメカニズムが論じられていた。私があまり触れたことがない分析や議論の方法を使っていたから、大いに勉強させてもらった。政治学っていうのは、きっとこういう学問なんだろうな。1996年までの中医協について知りたいのであれば、池上・キャンベルの書物のほうが優れていて、これは、そのアップグレード&拡張版といえる。