新国立劇場でオペラ『トリスタンとイゾルデ』を観る。大野和士が指揮した音楽は素晴らしかった。演出は、新国立に初めて登場するイギリスのデイヴィッド・マクヴィガーが、舞台・美術・照明などにおそらく自分の仲間のチームを引き連れて、美しい舞台を作っていた。三幕のどれも、月と水面がテーマで、舞台の中空には満月がのぼり、不気味な赤や不吉な白などに色を変える月の光が、暗い水面に広がる波紋に照らし出される、神秘的な素晴らしい舞台。トリスタンはしばらく前に『オテロ』を聴いたステファン・グールド、イゾルデは『指輪』のブリュンヒルデを演じたイレーネ・テオリン。新国立劇場から、クリスマスとお正月のプレゼントをもらったと思うべきだろう。
冒頭の導入、ドラマティックな一幕、二幕の長大な愛の二重唱、三幕のトリスタンのこれも長大なモノローグ、そして最後のイゾルデの「愛の死」。どれも堪能した。25年前、モーリス・パンゲ先生が、「トリスタン」を観たことがないといった学生に、「あなたは25年間も生きてきて、いったい何をしていたんだ!」といったという逸話を聞いた。私もその時はレコードで聞いていただけで、一度も舞台は聴いていなかった。あれから「トリスタン」は4回観た。年齢とともに印象が深くなる作品で、この公演は、月並みな言い方で申し訳ないけれども、「魂を揺さぶられる」としか言いようがないものだった。