博物館の医療器具は知性に訴えるのか感覚に訴えるのか



新着のIsis から、医学博物館が、訪問者に何を感じ考えさせるべきかという議論。とても勉強になった。

2nd: Arnold, Ken, and Thomas Soederqvist, “Medical Instruments in Museums: Immediate Impressions and Historical Meanings”, Isis, 102(2011), 718-729.
医学博物館が所蔵する「医療器具」をどう見せるべきか、訪問者に何を感じさせ何を考えさせるべきかということについての挑戦的な洞察を含む議論で、とても面白かった。医学博物館が、医療器具やコレクションを見せるというと、人々を単純に怖がらせたり気味悪がらせたりするのではなく、その器具や標本がもった文化的な意味を教えるべきであるというのが主流の考え方であり、歴史学者たちはもちろんこれに賛成する。彼らの議論のポイントは、それと同じくらい重要なのが「直接の印象」(immediate impression)であるということである。これは、その場で観たり触れたりすることから直接に得られる経験と感覚である。それが芸術作品だと、文化的な意味の解読行為に較べて、作品に直接触れることが持つ「直接の印象」が重要であるというのは、言うまでもない。美術館で作品を観ているときに、美術史の教科書やイコノロジーの本に書いてあることをひっきりなしに話す人は嫌われる。それと医療器具も似た側面を持っていて、美的・主観的・官能的・情感的なアプローチというのは、歴史学的な意味の解読行為と共存し、相互に豊かにしあうことができる。特に、医療器具というのは、直接身体とかかわるものであるという重要な性格を持っている。鋭く研いだメスや、ゆるやかにカーブして鈍く輝くフォーセップス、そして「麻酔ができる前に、尿道から挿入して結石を砕くのに使われた器具」などは、身体を媒介にして過去にそれを用いた・用いられた人とつながる印象を与える。この印象こそ、医療博物館にとって重要な資源であるという。

これは、身体が歴史的に構築されると同時に、身体を通じて歴史的な共有が起きるという、歴史と身体の二重性を医学博物館の展示に反映させようという議論だと思う。学生に授業をする上でも、とても参考になる。

画像は、「かんし」と「結石破砕器」。たしかに、これは、強い仕方で身体に訴えかけるものを持っている。写真の取り方も小憎らしいほどいい。