植木哲也「隠された知―アイヌ教育と開拓政策―」『苫小牧駒澤大学紀要』no.12, 2004, 17-32.
大正から昭和戦前期のアイヌの窮状を救うための政策の背後にある思想を分析した論文。1918年の『調査』などを素材にして、二つの互いに矛盾する思想が併存していたことを示す。アイヌの窮状は和人たちの目に火のように明らかであった。諸民族の生存競争と優勝劣敗というダーウィニズムと優生学の原理がもっとも鮮明に示されたのは、アイヌの衰亡であったに違いない。問題は、その原因は何かという問いであった。それはアイヌの無知に原因があるのか。あるいは、アイヌは本当に無知なのか。むしろ、アイヌの衰亡の原因は和人の侵入と圧迫にあるのではないか。アイヌが和人のようになることは、問題の解決なのか、それとも問題をさらに困難にすることなのか。極端に言えば、アイヌがアイヌのままでいて、そのため無知であったことが問題の根源で、アイヌを教育すれば窮乏から救われるのか、それとも、アイヌ社会に和人が入ったことが問題であって、むしろアイヌだけの生活圏・文化圏を作り上げるほうが、アイヌが持っている「知」が生きるのか。このような一連の問いに対して、いずれの側にも一定の理があることが認められていたが、最終的には、アイヌの無知が問題の根源であり、教育、それも和人と同じ学校で教育を受けることが求められて、和人による圧迫と開拓政策がアイヌに与えた打撃が覆い隠されることがあった。