『芸術新潮』の7月号では、いわさきちひろの特集を組んでいる。実は、子供の頃に読んだ思い出がある作品で、いわさきちひろが挿絵を描いた作品を思い出すことが難しい。あまんきみこの『おにたのぼうし』がいわさきちひろの絵だったことは思い出せるが、この作品は読書感想文の課題図書になって、楽しくない記憶がある作品である。むしろ、いわさきちひろの作品が心に残るようになったのは、自分自身が親になってから彼女の作品に接するようになってからである。特に印象深いのは、松田道雄『育児の百科』の白黒の挿絵である。
『芸術新潮』の特集は、掲載された一連の絵もよかったし、橋本麻里の人生のまとめもよかったが、私が一番面白かったのは、北澤憲昭「『紫陽花いろ』の画家」という評論だった。母親として赤ちゃんに実際にふれてみた経験こそが、ちひろのスタイルに重要であったという指摘(「あのやさしく、やわらかい線の動きは、子供の肌に触れる母親の手の動きそのものなのだ」)は、私にとって目からうろこが落ちるようなものだったし、その議論と並べて提示されているヴェトナム戦争に取材した『戦火の中の子供たち』(1973)で描かれた厳しさ・強さというものも、納得がいった。
『芸術新潮』の特集は、掲載された一連の絵もよかったし、橋本麻里の人生のまとめもよかったが、私が一番面白かったのは、北澤憲昭「『紫陽花いろ』の画家」という評論だった。母親として赤ちゃんに実際にふれてみた経験こそが、ちひろのスタイルに重要であったという指摘(「あのやさしく、やわらかい線の動きは、子供の肌に触れる母親の手の動きそのものなのだ」)は、私にとって目からうろこが落ちるようなものだったし、その議論と並べて提示されているヴェトナム戦争に取材した『戦火の中の子供たち』(1973)で描かれた厳しさ・強さというものも、納得がいった。